こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

先生、私の隣に座っていただけませんか?

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夫の不倫に気づいていることをにおわせる妻。妻に気づかれているのを分かっていながら平穏を装う夫。言葉に仕込んだ毒が妄想を膨らませ、鎌をかけたつもりが、思わぬところでぼろを出す。物語は、漫画家夫婦に訪れた危機に迫る。喜怒哀楽を表に出さず、すべてお見通しのような目で妻は夫を見る。夫は焦りつつも妻の真意を測りかね卑屈な態度をとってしまう。いつしか夫は疑念に苛まれるが、それを口にはできない。夫婦だからこその些細な感情、言いたくても言い出せない、けれど言わなくてもわかっている。アイデアが枯渇した夫といまだ創造力に富む妻、パワーバランスが壊れた夫婦関係の中で、女のいやらしさと男の愚かさが交差する。むしろホラーに近い演出は人間の心に潜むダークな部分を浮かび上がらせ、ふたりの冷めきった関係を象徴していた。

連載を終えた佐和子はけがをした母と同居するために夫の俊夫と共に実家に帰る。佐和子が描き始めた新作のラフには、俊夫と担当編集者・千佳のキス現場が含まれていた。

佐和子は自動車教習所に通い始め、さらに教官の新谷との恋をテーマにしたストーリーを膨らませていく。千佳との関係がばれたと思った俊夫は、ラフを盗み見した負い目もあり黙っている。その間にも、漫画の中の佐和子と新谷の仲は深くなっていく。佐和子の意図がわからぬまま戸惑い疑心暗鬼になっていく俊夫。なに食わぬ顔で教習所への送迎を俊夫にさせる佐和子。常に先手を打たれ運命を握られている、佐和子の手のひらの上で踊らされている俊夫の不安と恐怖がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

佐和子の筆は進み、彼女の漫画と彼らを取り巻く現実がシンクロしていく。果たして佐和子はどこまで本気なのか、自分に何を求めているのかわからぬまま俊夫は混乱していく。さらに、千佳まで騒動に加担し混乱に拍車をかける。ただ、佐和子の深謀遠慮が解明されていく過程はかなり無理があり、とても共感するまでには至らない。ユニークな展開だが、新谷のキャラ設定が強引すぎた。

監督     堀江貴大
出演     黒木華/柄本佑/金子大地/奈緒/風吹ジュン
ナンバー     163
オススメ度     ★★*


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