こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

護られなかった者たちへ

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縛られたまま放置され衰弱死した男2人。彼らはいずれも信頼できるいい人として評判の人間で、決して他人の恨みを買うようなタイプではない。物語は、連続殺人事件を追う刑事が被害者の別の顔をあぶりだしていく過程で、大震災が残した深い傷跡を浮き彫りにしていく。愛する者を失った同士がお互いの支えとなっていた。なのに行政は被災者に手を差し伸べるどころか、むしろ援助から遠ざけようとする。そんな矛盾に怒った若者は暴走するが、無力感に打ちひしがれるだけ。受ける権利のある人々は恥と思い、受ける必要のない者ほどだまし取ろうとする生活保護。娘の塾代のためにパートに出たシングルマザーが訴える窮状は、本当に必要としている人々に行き届かない制度の盲点を衝いていた。貧困ゆえに飢える、21世紀の先進国では考えられない現実がリアルに再現されていた。

福祉職員殺害事件担当となった笘篠は、放火罪で服役を終えたばかりの利根に目星をつける。利根は津波被害の避難所で幹子という少女と知り合い、2人で圭という老婆の世話になっていた。

憎むような恨むような視線で世間を見る利根は、いかにも凶事を働きそうな雰囲気をまとっている。人を寄せ付けず、笑顔は絶対に見せない。利根の心を開いた圭も哀しい過去を背負って生きている。幹子もまた両親を亡くしている。一方で震災からの復興は生き残った者たちに、希望も与えないまま生き続ける義務を押し付ける。なのに、人々に安心できる生活を保障すべき役人が原理原則にこだわりきちんと機能しない。膨大な業務量を少しでも減らしたいのだろう、生活保護を受給する後ろめたさに付け込んで申請をあきらめさせるのだ。真面目で正直なほどこぼれ落ちていく、自己責任や自助努力という言葉に押しつぶされた弱者の気持ちが痛切だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

2人の被害者の共通点が明らかになり、第3の事件に備えて笘篠は警備に当たる。そして現れた男。己のためではない、守るべき人がいるからこそわが身を犠牲にできると彼の勇気は教えてくれる。

監督     瀬々敬久
出演     佐藤健/阿部寛/清原果耶/林遣都/永山瑛太/緒形直人/吉岡秀隆/倍賞美津子
ナンバー     125
オススメ度     ★★★


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