こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

草の響き

f:id:otello:20211016095928j:plain

都会での激務に疲れ果て、心を病んで故郷に戻った夫。夫を支えるために見知らぬ土地までついてきた妻。夫は己の体調しか頭にない。妻は心配しながらもうんざりし始めている。物語は、そんな若い夫婦間に起きる些細な感情の齟齬を描く。夫は、狂ったように走るのは狂わないためという。妻は、夫の回復を喜んではいるものの、自分に対して気遣いを見せない彼に不満を募らせていく。毎日外に出る夫は地元の若者と知り合ったりもするが、妻の寂しさを癒してくれるのはペットの犬しかいない。外見は健康なのにちょっとしたきっかけでネガティブ思考に支配され錯乱するかもしれない男を、東出昌大が繊細に演じる。そして、小さな町で人間関係を築けない東京出身の妻が抱えるストレスを、奈緒がリアルに再現していた。

自律神経失調症と診断されるが、服薬と日々欠かさずのランニングで心身ともに回復させていく和雄。ランニングルートの駐車場でスケボーの練習をする高校生、彰と弘斗と知り合う。

会社を辞めて職を探すが、食堂の洗い場くらいしか働き口はない。それでも人とかかわらずに済む分、和雄の心理的負担は軽く笑顔も戻っていく。妻の純子は、元気になったのなら少しは家事の手伝いや妊婦に対する優しさを見せてほしいと思っているが、また和雄が不調になるのを恐れなかなか口に出せない。表面だってケンカしているわけではない。友人が訪ねてくると仲のいい夫婦に見えるよう振舞ってはいる。それでも本心では埋めがたい隙間が生じているのを感じている。そのあたり、純子のおなかが膨らむにつれ家の中の空気が少しずつ刺々しくなる過程が息苦しいほどの緊迫感を醸し出していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

高校を中退するという弘斗に対し、彰はバスケ部員とのトラブルを黙っている。お互いたったひとりの友人なのに、本心までは話せず不器用な距離感を縮められない。和雄と純子、彰と弘斗。彼らの人間関係は、どれほど一緒の時間を過ごそうとも所詮は他人、愛や友情など絵空事に過ぎないと教えてくれる。
監督     斎藤久志
出演     東出昌大/奈緒/大東駿介/Kaya/林裕太/三根有葵/室井滋
ナンバー     185
オススメ度     ★★*


↓公式サイト↓
https://www.kusanohibiki.com/