こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

モーリタニアン 黒塗りの記録

f:id:otello:20211104101448j:plain

テロリストの親玉から1度電話を受けただけ。敵意と不寛容がむき出しの時代、圧倒的な権力によって自由も人権も奪われた男は、もはや魂の抜け殻のようになっている。そして誰も信じられない中で、一縷の望みを弁護士に託す。物語は、同時多発テロを起こした組織の幹部と疑われて逮捕された青年の十数年に渡る苦難を描く。時に寒すぎる部屋で睡眠を奪われ、昼間は露天の囲いの中で暑さを我慢しなければならない。さらに目をそむけたくなるような拷問の数々。一方で、良心に基づいて彼を助けようとする弁護士もいる。彼の無罪を証明する手段は乏しい、しかし、検察側にも決定的な証拠がない。弁護士と軍検察官それぞれの立場で己の信じる「正義」を主張する姿は、米国にはまだ自由を信じ守り抜こうとする信念の人々がいることを教えてくれる。

ハイジャック実行犯をリクルートした容疑でグアンタナモに収容されているスラヒの弁護を引き受けたナンシー。関係当局に資料を請求しても黒塗りの文書が返ってくるだけだった。

奨学金を得てモーリタニアからドイツに留学の経験があるスラヒ。英語はしゃべれなかったのに、看守との会話や尋問中に浴びせられた言葉からいつしか身に着けている。さらにナンシーに長文の手紙を書くなど、書き言葉までマスターしている。隣房のフランス人の助言とはいえ、敵の言葉と考え方を理解しようとし、なんとかチャンスを探るスラヒ。英語の習得は彼に生きる目的を与えたはず。絶望的な状況下でも、すべきことを見つければ、人間としての尊厳は守れると彼の行為は訴えていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

軍検察官のスチュアートはスラヒを有罪にしろと厳命を受けている。ところが、彼もまた調査を進めるうちに真実が隠蔽されていると気付く。確かに米国の司法制度もまだまだ問題は多い、だが、過去をきちんと検証し間違いは正していく自浄作用がある分、米国はまだ恵まれていると感じた。拷問の中に「強制性交」があったが、そんなことをしたがる女性兵士もいるのが驚きだった。

監督     ケビン・マクドナルド
出演     ジョディ・フォスター/タハール・ラヒム/ム ザカリー・リーバイ/シャイリーン・ウッドリー/ベネディクト・カンバーバッチ
ナンバー     199
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://kuronuri-movie.com/