もう50歳になったのにいまだに自立できないわが子。規則正しい生活はできるけれど、想定外のことが起きるとパニックになってしまう。物語は、自閉症の息子と2人で暮らす母の気苦労を追う。家から授産所に通っているうちは細かい目配りができた。グループホームで共同生活を始めても気になって仕方がない。近所の住民は知的障害者から距離を取る。役所に行っても相手にしてくれない。結局、誰も頼ることはできず、自分たちで抱え込むしかない。弱者に根拠のない希望を持たせたり、住民側を人情に欠ける人々と描いたりはせず、カメラはあくまで知的障害者の周辺で起きるトラブルを等距離で見つめる。現実では奇跡など起こらない。現状が改善される見込みも少ない。「このまま共倒れのなっちまうのかねぇ」という母の言葉が、障害者問題の深さを浮き彫りにする。
珠子と忠男が暮らす古民家の隣に草太一家が引っ越してくる。転校したばかりで友達がいない草太は、グループホームから抜け出した忠男と乗馬クラブに忍び込み、ポニーを馬場に連れ出す。
町内会長はグループホームに露骨に嫌な顔をするし、隣家のオッサンは資産価値が下がると平気で口にする。乗馬クラブの女も馬が怖がると敬遠する。みな普段は “福祉” や “助け合い” には賛同しているのだろう。ところがわが身にデメリットが降りかかると態度を翻す。人間誰もが裏表がある。グループホームの一員が小学生に暴力をふるった過去がある以上、彼らの気持ちも理解できる。知的障害者と地域の住民の関係をきれいごとではなくリアルに再現した映像は、見る者に当事者となった時の対応を考えさせる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
両親との食事中、草太は突然泣き出し真実を話す。忠男を嫌っていた草太の父も、良心の痛みから頭を下げる。根っからの悪い人などいないし、住民たちも善意と意地悪さの両方を持っている。むしろ嘘がつけない忠男が信用できるのかもしれない。障害者との共生に正解はないが、最善は探し続ける。それがいちばん大切だとこの作品は教えてくれる。
監督 和島香太郎
出演 加賀まりこ/塚地武雅/渡辺いっけい/森口瑤子/斎藤汰鷹/徳井優/林家正蔵/高島礼子
ナンバー 206
オススメ度 ★★★*