こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パワー・オブ・ザ・ドッグ

f:id:otello:20211122141808j:plain

見渡す限りの平原、その先には低い山並みが続いている。鉄道網が伸び自動車が普及し始めた時代でも、フロンティアの面影を残す米国西部の雄大な風景が圧倒的な余韻を残す。物語は、牧場経営者の弟の元に嫁いできたシングルマザーと義兄の葛藤を追う。カネ目当ての結婚と義兄は彼女を毛嫌いし、露骨に嫌味な態度をとる。ホテルの女将だった彼女は相談相手もおらず、酒に溺れる。そして夏休みの間牧場に滞在する彼女の息子は、母の様子を見て静かに決意を固めていく。多用される長回しのショット、その中で登場人物が見せる思わせぶりな視線、感情を逆なでする不穏な音楽etc. 何かが起こりそうな予感を漂わせる映像には終始緊張感を強いられる。ひとりの女が男の悪意に押しつぶされていく過程がリアルに再現されていた。

ジョージと結婚したローズだったが、フィルの執拗な嫌がらせに耐えかねバーボンに手を出す。ローズの息子・ピーターがローズのそばに戻ってくると、フィルの関心はピーターに移る。

フィルはイェール大卒のインテリ。さらにローズがピアノで「ラデツキー行進曲」の練習をしていると、バンジョーで伴奏するなど音楽の才能を見せたりする。にもかかわらず、ローズや先住民に対する偏見は隠さないし、知事夫妻が訪問しても身なりを整えようともしない。女への性的興味より、荒くれ者のように振舞うことが男らしさと思っている。ところが貧弱な肉体ながら繊細な感性を持つピーターに対しては、嫌がらせをしていても一線を引いているよう。伝説のカウボーイへの崇敬の念を常に口にするフィルは、彼を理想としながらもどこかでピーターのような感受性豊かな人間に憧れている。そんなフィルの複雑な心境を、ベネディクト・カンパーバッチが熱量高く演じていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

秘密を知られたことから、フィルはピーターを懐柔しようとする。だが、ローズを酒浸りにしたフィルを、ピーターは許せない。準備には時間をかけチャンスが来るのを待つ。復讐に必要なのは忍耐だとこの作品は訴える。

監督     ジェーン・カンピオン
出演     ベネディクト・カンバーバッチ/キルステン・ダンスト/ジェシー・プレモンス/コディ・スミット=マクフィ
ナンバー     213
オススメ度     ★★*


↓公式サイト↓
https://www.netflix.com/title/81127997