こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミュジコフィリア

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「未聴感」。新たに作曲された音楽において、それを聞いた者が斬新さを覚える旋律なり曲想をいうのだろう。全体としては耳になじむメロディでそれなりにまとまっているけれど、過去の名曲のいいとこ取りで作曲者のオリジナリティが感じられない作品は、やはり現代音楽として評価されない。物語は、芸術大学の音楽サークルに入った新入生が奇天烈な先輩や理解ある先生、恋や異母兄弟との葛藤を経て成長していく過程を追う。もちろん音楽の基礎は叩き込まれるが、その後の応用は自分次第。正統派の交響曲から音楽と呼べるのかどうかわからないパフォーマンスまで、音楽を自由に解釈する若者たちの、まだ実績もないのに己の才能を信じて突っ走る姿は、青春モノの定番とはいえとても楽しい。たおやかな賀茂川の流れはアートとの親和性がいい。

京都の芸術大学に入学した朔は現代音楽研究会に勧誘され、封印していたピアノの才能に火が付く。一方、博士課程在学中の異母兄・大成は新曲でコンクールにエントリーする。

美術専攻なのにいつの間にか音楽にどっぷりはまっている朔。単位はとか転部してはとか心配するが、本人も周囲も全く意に介さない。芸大らしい “やりたいことは突き詰めてやれ” という方針なのだろう、朔は変人の青田に引きずられるままに音楽の世界に浸っている。他の登場人物もそれぞれが課題と創作に打ち込む。ピアノ、弦楽器、作曲、歌唱と表現方法は様々だが、共通しているのは聞く者の心に少しでも爪痕を残そうという工夫と努力。まだアーティストとも呼べない彼らの感性は未熟だが情熱にあふれていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

朔と大成は過去の因縁から距離を置いている。現時点では圧倒的に大成の方が洗練されているが、音感に恵まれた朔は即興で人を虜にするメロディを紡ぎだしたりする。天才も変人も努力家もエゴイストも、みな自らの感性を信じ無限の可能性に向かって進む。そんな若者たちの背中は希望に満ちていた。ありふれた設定でぎこちない展開ながら、若いエネルギーがほとばしっていた。

監督     谷口正晃
出演     井之脇海/松本穂香/山崎育三郎/川添野愛/阿部進之介/石丸幹二/濱田マリ/神野三鈴/辰巳琢郎
ナンバー     214
オススメ度     ★★★


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