こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド

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退屈な田舎町の代わり映えしない日常。この町から出たくて仕方ないのに一歩踏み出す勇気がない。そんな時知った推しバンドの解散。物語は、青春の終わりを惜しむかのように集まった若者たちの喧騒とミニFM局乗っ取り事件を追う。もう高校時代のように無邪気に夢を語ってはいられない。大学に進学するか働き始めるかの選択を迫られる現実に若さが蝕まれていく。それでも自分が存在した爪痕を誰かの胸に刻もうともがく。熱狂や興奮とは程遠いけれど友人たちとじゃれ合っているのが楽しい。そしてこの時間が永遠に続けばいいと願っている。学園のスターでもいじめられっ子でもなかった、モラトリアム期間の終わりが見えてきた彼らの、“何かしなければ、なんとかしなければ” という焦燥がリアルに再現されていた。

ザ・スミスの解散に衝撃を受けたクレオレコード店員・ディーンとその喪失感を分かち合う。その夜クレオはビリーの入隊を祝うため、シーラやパトリックと飲み明かす。

地元放送局のDJに拳銃を突きつけ、ザ・スミスの曲のオンエアを強要するディーン。DJもリスナーもザ・スミスの陰鬱な歌よりもノリのいい楽曲を求めている。だが、何曲も流れるうちにその曲想のすばらしさが伝染していく。このあたり、英国バンドの発するメッセージが米国民にはなかなか理解されないという価値観の違いを象徴していた。まだ携帯電話も配信もない1987年、音楽の発信元はFM局だった。レコードからCDに移行する過渡期のアナログな雰囲気がDJブースに色濃くにじんでいた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

クレオとビリー、シーラとパトリックはそれぞれ男女として意識し合っているが、恋にまでは発展していない。クレオはビリーの告白をスルーして、ザ・スミス追悼放送を実現させたディーンの気持ちを理解する。地元の相手と付き合い結婚するのは将来もこの町でしょぼい生を送ることを意味する。それだけは避けたいと願いつつ、自分を一番理解してくれる男と一緒にいるのが幸せという思い。その板挟みになるクレオの心が切なかった。

監督     スティーブン・キジャク
出演     ヘレナ・ハワード/エラー・コルトレーン/エレナ・カンプーリス/ニック・クラウス/ジェームズ・ブルーア/ジョー・マンガニエロ
ナンバー     224
オススメ度     ★★*


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