多忙な日常にとりあえず順応している。だが、心にとりついて離れない強烈な違和感にも苛まれている。自分はいったい何者なのか、この人生は真実なのか。物語は、仮想空間で成功したプログラマーが世界を支配するルールに挑戦する姿を追う。マシーンが人間を動力源にし、一部の目覚めた人間たちが地下活動をしている設定は前シリーズを踏襲する。当然マシーン側はアップデートされているが、人間の方は老いる。2021年に話題になったメタバースが20年以上も前に映像化されていたことに、映画が持つ “未来を語る力” を改めて認識させられた。そしてこの作品も問い続ける、“その選択は自由意志なのか運命なのか” と。困難が待ち受けているとわかっていながら一歩踏み出す勇気を持つ者だけが現実を変えられるのだ。
ゲームソフト・マトリックスで大成功したトーマスは別世界から現れたバックスとモーフィアスに導かれ、ネオとして覚醒する。人間が暮らす社会ではAIやロボットとの共存が実現されていた。
もうマトリックスで戦う意味はほとんどない。ところが、生涯でただ一人愛したトリニティがまだマトリックス内にとらわれていると知ったネオは、彼女を救出するためにマトリックスに戻る。果たして彼女は “救世主” としてのネオを覚えているのか。すでに既婚者となり子供までいるトリニティにネオは選択を迫る、彼女が必ず正しい選択をすると信じて。道中、東京に向かう列車の中で派手な銃撃・格闘が繰り広げられるが、日本人らしき乗客はみなマスクをしているあたり、コロナ禍の日本が細かく観察されていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
もちろん映像のクオリティは高く、アクションも目まぐるしい。それでも、第一作目で体感した革命的な表現術は影を潜め、斬新さはない。そもそもループを繰り返すという設定で前シリーズを焼き直しているばかり。この20年間のVRゴーグルなどのツールの進化で、IT業界がSF映画に追いついてきた。せっかくマトリックスを復活させるのなら、10年先の未来を予感させてほしかった。
監督 ラナ・ウォシャウスキー
出演 キアヌ・リーブス/キャリー=アン・モス/ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世/ジョナサン・グロフ/ジェシカ・ヘンウィック/ニール・パトリック・ハリス/プリヤンカー・チョープラー/ジェイダ・ピンケット・スミス
ナンバー 229
オススメ度 ★★*