こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ユンヒへ

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ずっと昔に別れた彼女を今も夢で見る。それは、誰かを本気で愛したたったひとつの記憶だから。物語は、若いころ交際していたふたりの女が長い時を経て再会する過程を描く。同性愛は偏見にさらされていた。無理やり引き離され精神鑑定まで受けさせられた。一応、男と結婚し娘をもうけたが結局離婚した。一方、日本に行ってしまった女はいまだ男に興味を持てない。多くを語らない。啓蒙活動したり権利を主張したりするわけでもない。ただひっそりと自らの性的志向に向き合うのみ。家族や友人たちから否定され白い目で見られ、その無理解に怒り悲しんだだろう。自らの無力感にさいなまれつつ孤独に耐えてきたのだろう。ほとんど喜怒哀楽を失ったかのような彼女たちの日常は、性的マイノリティとしての生きづらさを象徴していた。

高校生の娘・セボムから旅行に誘われ小樽にやってきたユンヒ。小樽には20年前に付き合っていたジュンがおばと2人で暮らしている。ジュンは父の葬儀を終えたばかりだった。

セボムの計画はユンヒをジュンに会わせること。BFを使ってジュンの家やおばの喫茶店を調べ上げ、どうしたら不自然にならないか知恵を絞る。冬の小樽、雪かきをしてもすぐに道は雪に埋まり、人々はまたスコップを手にする。文句を言っても始まらない。世の中思い通りにならないことの方が多いと、雪かきをぼやく叔母の言葉は訴える。きっとおばもジュンと同じような経験をしてきたのだろう。ジュンとセボムに送る視線は人生を悟った人間だけが醸し出せる味わいがあった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

小雪の舞う運河のほとりで声を掛け合うふたり。大げさな感情表現はなく、ひっそりと会話を続けるのみ。もはや言葉にしなくてもお互いの気持ちは理解できるのだろう、ゆっくりと運河沿いの道を歩くふたりの姿は美しい思い出を共有する者だけがもつ余裕が感じられた。帰国後、ユンヒは新たな職探しを始める。だが高卒で肉体労働の経験しかない彼女には食堂の下働きくらいしか求人がない。そのあたり、韓国社会の厳しさがリアルだった。

監督     イム・デヒョン
出演     キム・ヒエ/中村優子/キム・ソへ/ソン・ユビン/木野花/瀧内公美
ナンバー     8
オススメ度     ★★*


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