誰もが、自分たちは被害者だと言う。誰もが、相手こそが加害者だと返す。もう数十年続いている抵抗と弾圧の歴史、この時代に生まれ育った若者たちにもまた憎悪が植え付けられている。物語は、イスラエル人とパレスチナ人の混成オーケストラがお互いに人間として認めあっていく過程を描く。探り合うような視線は攻撃するチャンスをうかがっているよう。なんとか弱点を見つけてマウントを取りたい。彼らと演奏したいという思いよりも、なんでこんなヤツらと一緒にやらなければという気持ちがせめぎ合うなか、団員たちは少しずつ成長していく。彼らを根気良く見守ってきた指揮者は偏見への罪悪感と戦ってきた過去を持つ。彼らは理解し合えるのか。和解できるのか。恋を成就させようと駆け落ちする若者が現代にもいることに驚いた。
オーケストラの指揮を依頼されたエドゥアルドは、オーディションを開く。合格者はほとんどユダヤ人、団員の構成を1対1にする制約の中、エドゥアルドは調整を迫られる。
検問所では、イスラエル兵に少しでも反抗的な態度を示したパレスチナ人は別室で恭順を求められる。対テロ対策なのだが、バイオリニストのレイラが受けた仕打ちは、イスラエルとパレスチナの現状を象徴していた。一方、指揮者には絶大な権限が与えられているはずなのに、エドゥアルドに悪態をつく受験者がいたり、彼のスピーチを遮ったりする団員がいる。レイラもストレートに発言するし、エドゥアルドをマエストロと呼ぶバイオリニストのロンですら、勝手に仲間をステージに上げたりする。高名な音楽家のエドゥアルドに対し、なぜか敬意を示さない。まるで先生をなめ切った中学生たちの教室のようだ。自己主張をするのはいいが、もう少し年長者への口の利き方を学ぶべきだろう。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
合宿を経て徐々に壁を低くしていく団員達。オマルとシーラという禁断のカップルまで生まれる。まずは個人の努力、理想を現実にするにはひとりひとりが第一歩を踏み出さなければならないとこの作品は訴える。
監督 ドロール・ザハビ
出演 ペーター・シモニスチェク/ダニエル・ドンスコイ/サブリナ・アマーリ/メフディ・メスカル/ビビアナ・ベグロー
ナンバー 22
オススメ度 ★★*