こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オペレーション・ミンスミート ナチを欺いた死体

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野垂れ死にしたホームレスに、架空の名前、階級、軍歴、戦闘服のみならず、婚約者やラブレター、指輪と領収書まで用意する。さらに彼の性格や行動を、いや、人生まるまる詳細に創作する。物語は第二次大戦時、英国諜報部がドイツ軍に対して行った偽装工作を描く。偽情報を持った死体を中立国に漂着させ、機密を得たと信じ込ませようとする。だが、敵も当然警戒していて簡単に騙せるわけではない。作戦を知っているのは首相以下数人、協力者もほとんどいない中で着々と準備を進める主人公は、一方で同僚や上官から完全に信頼されていない。敵に嘘をつく人間は味方からも信用されない。常に二重スパイの疑いをかけられている。ひとつ間違えれば裏切り者の汚名を着せられる。そんな状況の中で祖国に対する忠誠心だけを支えに職務に励む諜報部員たちの感情がリアルに再現されていた。

MI5のユーエンは同僚のチャールズと共に連合国軍のギリシア上陸作戦をでっちあげ、ドイツ軍をかく乱する作戦を立案する。機密文書を持たせるための死体を探し、ディテールを肉付けする。

妻を疎開させたユーエンは部下で協力者のジーンに複雑な思いを抱く。同時に、弟のコミュニスト傾倒が問題視され、ユーエン自身が監視対象にされたりもする。敵のスパイはどこに潜んでいるかわからない。自覚のないまま情報を敵に流している可能性もある。結果として疑心暗鬼に憑りつかれ、誰の、どんな言動も真実を騙った欺瞞ではないかと心は晴れない。自分も周囲からそう見られている。神経をすり減らしながら冷静さを保ち続ける諜報部員の仕事ぶりは、破壊・銃撃・カーチェイス・格闘といった派手なアクションに頼るスパイ映画よりもはるかにスリルとサスペンスに満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

漂着した死体は想定通りにドイツ軍の手に渡り、書類の内容はヒトラーに伝えられる。反ヒトラー派のドイツ軍人なども暗躍し、さらなる心理戦が展開される。007の原作者が立案したとされるこの作戦、情報こそが近代戦の最大の武器だと改めて教えてくれる。

監督     ジョン・マッデン
出演     コリン・ファース/マシュー・マクファディン/ケリー・マクドナルド/ペネロープ・ウィルトン/ジョニー・フリン/ジェイソン・アイザックス
ナンバー     33
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/mincemeat/