こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シラノ

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高い見識と感情豊かな詩を紡ぐ才能に恵まれた上、剣術にも優れている。だが、外見のコンプレックスゆえにシニカルな態度を取り続け、自分の本心は親友にしか明かせない。物語は、主人公の巨大な鼻を軟骨発育不全症に置き換えた「シラノ・ド・ベルジュラック」を、ミュージカルに再生する。胸にたぎる思いは狂おしいほどに高鳴っている。なのに、彼女が愛したのは長身イケメンの若者。こんな自分にできるのは、頭に浮かんだ言葉で、若者を通して己の気持ちを伝えることだけ。ところが彼女はその言葉自体をいつしか愛するようになる。真実を明かしたい。でも己がふさわしくないのはわかっている。だからこそ、ただ言葉だけで彼女を夢中にさせたい。手紙の文字をにじませた涙の跡が、やせ我慢は究極の男の美学だと教えてくれる。

剣客・シラノはロクサーヌに片思いしていたが、彼女は新人隊士のクリスチャンとお互いに一目ぼれする。仲介を頼まれたシラノは、クリスチャンの手紙を代筆したうえ、告白の手伝いをする。

その容貌をどれほど恨んだだろう。いくら知性に恵まれ弁が立とうとも、決して女たちは恋愛の対象として見てくれない。もっと背が高かったら、もっと手足が長かったら、人生はずっと楽しいものになっていたとつい想像する。シラノがロクサーヌへの愛を綴るメタファーの数々は、美しく洗練されるほど、彼女のまなざしはクリスチャンに向き、シラノの胸に哀しみの影は深く刻まれていく。それは、シラノを演じたピーター・ディンクレイジ自身が抱いていた劣等感であると想像に難くない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

140センチに満たない身長も “個性” だと21世紀のリベラルたちは言う。しかし、人並みの身長に恵まれた者は自分にそんな “個性” がないことに安堵しているはず。ルッキズムはよくないのは自明だ。それでも、自然と湧き上がる人間の感情まで否定してしまうような偽善まみれのリベラル思想の持ち主に対して、この作品は鋭い問いを突き付ける。「お前は憧れられない “個性” の持ち主をかわいそうと感じたことないのか」と。

監督     ジョー・ライト
出演     ピーター・ディンクレイジ/ヘイリー・ベネット/ ケルビン・ハリソン・Jr./ベン・メンデルソーン
ナンバー     38
オススメ度     ★★★*


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