こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

余命10年

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やっと退院できた。人並の生活に戻れると思った。でも、やっぱり運命は変えられない。物語は、100万人に1人という治療法の確立されていない難病の女と、人生に行き詰まった男の恋を描く。気持ちはうれしいけれど、応えられないのはわかっている。愛されている実感が湧くほどに、悲しませるのがつらい。このまま彼に身を委ねたいのに、本当のことが言えない。死が間近に迫ったヒロインはこれが人を愛せる最後のチャンスと知りながら、彼にも家族にも友人にも自分にも弱さをさらすまいと振る舞う。そんな彼女の繊細な感情を小松菜奈がセンチメンタルに演じる。もう何度も繰り返され使い古されたテーマながら、ディテール豊かに再現されたエピソードの数々は、死が身近にあるからゆえに有意義に過ごさなければならないと訴える。

2年の入院を経て家に戻った茉莉は中学の同窓会に出席、そこで和人と再会する。引きこもり状態だった和人はその後自殺未遂、茉莉は病院に駆けつけ、彼の無責任な行動をなじる。

和人は通院中の茉莉母娘を目撃、茉莉の母が余命わずかと勘違いして、己の行動を茉莉に詫びる。そこからふたりは急接近、和人は友達以上の関係になりたいと願うが茉莉はかたくなに拒む。もどかしいけれどわからなくもない茉莉の態度。真実を知らずに振り回され傷つく和人と、和人を守るために不誠実に振る舞う茉莉の、お互いを思いやりながらもすれ違う思いが切なかった。そして、残された時間が削られていくのを身近で見守るしかない両親と姉の、三人三様の彼女に対する距離の取り方がリアルで、非常に身につまされる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

立ち直った和人は居酒屋のバイトに就き、体調がいい時の茉莉は小説を書き始める。一方で確実に茉莉のタイムリミットは近づいてくる。どうしようもない。受け入れるしかない。だからこそ生まれてきた意味を見つけたい。叶えられなかった願い、届かなかった未来。それでも茉莉は幸せだったと思わせる映像は、人は死んだ後も誰かの思い出の中で生き続けると教えてくれる。

監督     藤井道人
出演     小松菜奈/坂口健太郎/山田裕貴/奈緒/黒木華/田中哲司/原日出子/リリー・フランキー/松重豊
ナンバー     42
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://wwws.warnerbros.co.jp/yomei10-movie/