こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

TITANE チタン

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自動車のボンネットに両手をつきセクシーに腰を振る女は、身をのたうち回らせ両足を開き上目遣いでその場にいる男たちの本能を刺激する。物語は、交通事故で頭蓋骨にチタンを埋め込まれた女が狂気の果てに真実の愛を知る過程を描く。体目当てに近づいてくる男は突く。肉体関係を迫ってくる女も容赦しない。さらなる犯行を重ねた彼女は指名手配され、逃亡中に閃いたアイデアを実行に移す。刺激的な音楽と蠱惑的なダンス、興奮して忘我の境地に達するようなトリップ感満載の映像は別次元にスイッチしてしまった感覚に陥る。常識や思い込みをことごとく打ち破る展開は不道徳かつ衝撃的、まったく新しい体験だった。右耳周りの手術痕を隠さないヒロインの誇りの高さと善意や良心とは無縁な生き方のアンバランスが、ジェンダーフリーに一石を投じる。

ダンサーのアレクシアはしつこいファンを突き殺す。折しも彼女の周辺では殺人事件が頻発していたが、アレクシアは海辺で知り合った女の家にも乗り込み、そこにいた男女に制裁を科す。

もはや彼女にとって、性的興奮を得られる相手は人間ではない。ナイトクラブに展示されたキャデラックに体を密着させて肌の感触を味わい、胸や太ももを押し付けて誘惑する。まるで男の本能に目覚めたかのように激しくボディを上下させるキャデラック。このきわめてマッチョなデザインの米国車は、男性的力強さの象徴だ。アレクシアはもう筋肉という鎧をまとっていない普通の男では満足できないのだろう。女としてではなく別人になって生きる道を選ぶ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

消防隊長の息子になりすましたアレクシアは、妊娠して大きくなったおなかと乳房をバンデージできつく巻き、新人消防隊員として受け入れられる。質問には答えず、自らも一切言葉を発しない。周囲は肉体的鍛錬を怠らない男ばかり、隊長もステロイドを常用しながら筋肉の衰えと闘っている。なのにアレクシアの体は極めて女性的に変貌する。いくら抵抗しても女は女、必然からは逃れられないとこの作品は訴える。

監督     ジュリア・デュクルノー
出演     ヴァンサン・ランドン/アガト・ルセル/ギャランス・マリリエ
ナンバー     31
オススメ度     ★★★★


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