こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

KAPPEI カッペイ

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子供のころから命がけの修行に励んできた。暗殺拳の達人になった。だが、そのスキルは世間からまったく必要とされず持て余してしまう。物語は、終末後の世界で悪と戦うために養成された男が平和を謳歌する大学で初めて恋に落ちる姿を描く。自ら終末のカオスを起こそうとする者、理解者を求めてさまよう者、別の道を見つけ普通に生きようとする者etc. 体力や精神力の強さだけでは相手にされない現代で、己の信念をひたすら貫き通す主人公のピント外れな正義感がディテール豊かに再現され、独特の世界観を作り上げている。仲間たちもそれぞれに自分たちの価値観が全く通用しない場所で、苦しみもがきながら、なんとか生き抜こうとする。その姿が切なすぎてコミカルだ。他人に対するやさしさと思いやりこそが、本当に強い男が持つべき資質だと彼らの背中は訴える。

解散を告げられた終末の戦士のひとり・勝平は、チンピラに絡まれていた啓太を救ったことから彼らの花見グループに合流、ハルに一目ぼれする。勝平は女と言葉を交わした経験がなかった。

修行中は女を見ることも許されず、勝平は女がどういう生き物か知らない。ただ、ハルに対する思いばかりが胸の中で沸騰し、それが片思いだと知る。恋に破れた守や社会になじめず暴走族となった正義といったかつての仲間たちも加わり、勝平の初恋を成就させようとする。その過程で繰り広げられる、常識をはるかに超えた彼らの思考法がピンポイントで笑いのツボを突いてくる。その引き出しの多さは波状攻撃のように腹をよじれさせてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、勝平はかつて師範代まで務めた英雄とも再会、なぜか英雄はシティーボーイを気取っている。あらゆる情熱を傾けて人生を捧げてきたことが意味のないものだと知らされる挫折と絶望。それを乗り越えるためになめた苦難。英雄が解散後に体験してきたことは、デジタル革命で突然価値観が転換した社会を生き続けなければならない20世紀生まれの人々が直面するアイデンティティクライシスを象徴していた。

監督     平野隆
出演     伊藤英明/上白石萌歌/西畑大吾/大貫勇輔/古田新太/山本耕史/小澤征悦
ナンバー     53
オススメ度     ★★★★


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