長い行列に並ばなくても食料や雑貨は優先的に手に入る。快適なアパートにも住んでいられる。だが、最近の物価高・物資不足にはうんざりしている。物語は、ソ連時代の地方都市で起きた暴動の当事者となったシングルマザーの奔走を描く。享受している豊かさは手放したくない。だから、気を許した相手には指導者への愚痴をこぼすのに、一般市民が彼を批判するのは許さない。さらにストライキに加わった者は全員逮捕と主張し、体制側を強く支持する。ところが、一人娘がデモに参加していたことを知ると、その発言がそのまま大きな皮肉となって己に返ってくる。もはや地位や特権などどうでもいい、彼女がエリート臭漂う共産党員からわが子を心配する普通の母親に変わっていく過程は、母性本能はイデオロギーを超越すると訴える。
賃下げ反対のストに入った工場労働者たち。治安維持のために軍隊が配備されるが、管理職のリューダは強硬策を提案する。ところが、市民のデモ行進に彼女の娘も参加していた。
労働者は暴徒化し、共産党員でもある工場幹部たちは狭い地下道から脱出せざるを得ない。その時リューダが見かけた狙撃銃を持った男。軍隊は空砲を空に向かって撃っているだけなのに、狙撃手はデモ隊をひとりまたひとりと仕留めていく。リューダの目の前で知人が次々と血祭りにあげられていくシーンは、体制への反逆は絶対に許さないという共産党の意図が透けて見える。さらに情報統制するために全市民に守秘を誓約させる念の入れよう。このあたり、民主主義を抑圧する強権国家の真実が浮き彫りにされていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
リューダは行方不明になった娘を捜す。KGBが娘について質問に来る。もう娘は死んでいるかもしれない。それでも自分の目で確認し、遺体を回収したい。そう願う彼女の気持ちを察したKGBの男は娘捜しに協力する。彼もまた体制に疑問を抱いているのだろう、立場上口にはできず、リューダを手伝うことで罪悪感を消している。こんな世界でも、人情は残っていることに少し救われた。
監督 アンドレイ・コンチャロフスキー
出演 ユリア・ヴィソツカヤ/ウラジスラフ・コマロフ/ アンドレイ・グセフ
ナンバー 67
オススメ度 ★★★
↓公式サイト↓
https://shinai-doshi.com/