こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

死刑にいたる病

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あんな男の言い分を信じていいのか。だが、落ちこぼれと見下してくる父親よりは、自分のことを理解してくれる。物語は、死刑判決を受けた連続殺人犯から冤罪を証明してくれと依頼された青年の葛藤を描く。被害者は決まったルーティンによって拉致・拷問の末に殺されているのに、1件だけは明らかに手口が違っている。警察も検察もそこを吟味せず、ついでに死刑囚に罪をかぶせているようにも感じる。青年はあらゆる調書や裁判記録を調べ、もう一度現場を検証し証人を直撃する。もしかしたら殺されていたかもしれない。家族にも秘密を抱えた者がいる。真犯人は野放しでいいのか。知るのが恐ろしい、だがもう引き返せない。死刑囚は青年の迷走を楽しんでいるかのよう。そんな状況で、主人公が少しずつ自信をみなぎらせていく過程が頼もしい。

榛原から手紙をもらった雅也は拘置所まで面会に行く。榛原の話術にすっかりペースを奪われた雅也は、弁護士事務所のアルバイト職員となって、事件をもう一度精査する。

榛原とはガラス越しにしか話せないのに、いつの間にか彼のペースにすっかりのせられる雅也。声は明朗、気遣いを忘れないやさしさと理路整然とした話し方に時折ユーモアすらにじませる。雅也の心に入り込み、雅也が選択したと思い込ませる。いつしか雅也は榛原が望むような答えばかりを収集し、それが真実のように思えてくる。人は共感してくれる人を信頼する、会話だけで相手を意のままに操縦する榛原の知能の高さと良心の欠如が人間の多面性を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

調査を進めるうちに、雅也は拘置所の待合室で声をかけてきた長髪の男が榛原と因縁があることを突き止める。さらに母にも問い詰める。だがそれは榛原にとっては想定通り。嘘はついていない、情報を小出しにしているだけ。いつしか雅也は己の体には凶暴な血が流れているのではと思い始める。他人の思考を言葉だけで自在に操り、己の残酷に歪んだ趣味嗜好を満たす榛原の瞳に宿る狂気は、ハンニバルに匹敵する光を放っていた。

監督     白石和彌
出演     阿部サダヲ/岡田健史/岩田剛典/宮崎優/佐藤玲/中山美穂
ナンバー     51
オススメ度     ★★★*


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