こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

とんび

職場でも居酒屋でも病院の廊下でも、気に入らないことがあるとすぐに突っかかり、けんかを始める男。根は正直で働き者なのだが、短気で損気、人情に厚くシャイなところもある。むき出しのぎょろ目で喚き散らす姿は、いかにも昭和の頑固オヤジという風情だ。物語は、気性の荒いトラック運転手の半生を息子の目を通して描く。妻は彼に似あわない穏やかな美女。事故死してしまったためにシングルファザーになってしまったが、田舎の小さな町では友人知人が時にガサツな彼の代わりになって子育てに手を貸す。隣近所も職場の同僚の家族もみな顔見知りというコミュニティの凝縮された人間関係が、古き良き時代の香りを濃厚に発散させていた。オート三輪から黒電話、白黒テレビやトースターといったディテール豊かに再現された小道具類に懐かしさを覚えた。

運送会社に勤務するヤスは、懸命に働きながらも、旭を溺愛しつつ育てている。ところが、旭は高校生になったころから、夜な夜な飲んだくれては己の価値観を押し付けるヤスを疎ましく思い始める。

父を知らずに育ったヤスは息子への接し方がよくわからず、自分の思い通りにならないと旭相手にもすぐに怒鳴りだす。野球部の後輩への “ケツバット事件” では、ヤスが身をもって旧弊を取り除こうとするが、そのやり方が結局暴力的で、ヤスらしくて笑ってしまった。一方で、旭は母の死因をよく覚えておらず、ヤスは旭に負担をかけまいと自分のせいで死んだことにしている。ヤスが見せるやさしさや思いやりはいかにも不器用だが、こんな男でも一戸建てを買えた高度成長期の日本人は本当に幸せに見えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、あらゆる感情表現が大げさで押しつけがましい。TVのホームドラマならわかりやすい演技・演出も必要かつ有効だが、客がスクリーンに集中している映画にはまったく不要。そんな映像から放たれる圧倒的な熱量は、ヤスのキャラクター以上に生理的嫌悪感を抱いてしまった。あと、早稲田の合格電報は「イナホミノル」ではなかったか?

監督     瀬々敬久
出演     阿部寛/北村匠海/薬師丸ひろ子/杏/安田顕/大島優子/麻生久美子/麿赤兒/濱田岳
ナンバー     71
オススメ度     ★★


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