信号の赤は進めで緑は止まれ。空間の構造や建築物などは全体的には似ていて人々も相似形なのだが、ディテールは微妙に違う。物語は、現実世界と並行宇宙を行き来する能力を持った少女を狙う魔女と、全宇宙の秩序を守ろうとするヒーローの戦いを描く。魔女としてしか生きられなかった彼女が望んだのは家庭人としての幸せ。それを手に入れるためには少女と呪文の書が必要となる。少女を保護するために体を張るヒーローも複雑な事情を抱えていて、己の正義に絶対的な自信がない。価値観が多様化した時代のヒーローの自問自答はこれまでさんざんマーベルの世界で再現されてきたが、男と伍して戦ってきた女ヒーローも実は「子育てに専念する母親」という20世紀的なロールモデルに憧れているあたり、ジェンダー平等に疲れたフェミニストの本音がうかがえる。
一つ目巨大タコに襲撃される少女・アメリカを救ったスティーブンは、スカーレット・ウィッチとなったワンダに追われ別バースに逃れるが、そこで囚われの身となってしまう。
目くるめくような色彩と事象の洪水が、さまざまなバースを通り抜けるスティーブンとアメリカに降りかかる。元バースにいるワンダは魔術を使って別バースのワンダを操り、スティーブンを監禁している評議会を襲う。このバースのスーパーヒーローたちがワンダを阻止しようとするが、ワンダは圧倒的な破壊力で彼らを苦も無く血祭りにあげてしまう。このあたり、バース間にはヒーローの実力格差があるとうかがわせる。マーベルヒーローの大安売りという感じがしないでもないが。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
元バースにいるワンダの野望を阻止するために、別バースにいるスティーブンは死体となった元バースの自分を魔術で蘇らせてワンダの元に送り込む。ゾンビのスティーブンが死霊たちを味方にして魔女と闘うという、ホラー映画のパロディのような展開。「アベンジャーズ」後のマーベル映画の方向性と可能性を占う試金石ではあるが、俳優の肉体性よりもCG技術に頼る映画作りはそろそろ飽きてきた。
監督 サム・ライミ
出演 ベネディクト・カンバーバッチ/エリザベス・オルセン/キウェテル・イジョフォー/ベネディクト・ウォン/ソーチー・ゴメス/マイケル・スタールバーグ/レイチェル・マクアダムス
ナンバー 81
オススメ度 ★★★