こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オードリー・ヘプバーン

父はファシストだった。母は貴族出身だった。両親の深い愛に恵まれなかった彼女はバレエダンサーを志した。だが、プリマドンナにまで昇る詰まる才能はない。映画は、オードリー・ヘプバーンの生涯を回顧しつつ彼女がいかにして女優から慈善活動家に軸足を移していったかをたどる。幼少時にファシズムが台頭し始め、ドイツ以外の国でも支持者が現れた。世の中に漂う怒りと憎しみ、それらから目を背けることなく慎重に激動の時代を生き抜いた少女は、平和の到来とともに時代のアイコンになっていく。すらりと伸びた手足、エラの張った顔。アーカイブ映像からは、ハリウッド基準の美女とは明確に一線を画した圧倒的な存在感がほとばしっていた。

1929年、外交官の父と男爵家の娘である母の間に生まれたオードリー。父の失踪後、第二次大戦中はメッセンジャーとしてレジスタンスに協力する。戦後、バレエ学校に再入学するが早々と見切りをつけ、映画の端役こなす。

ブロードウェイミュージカルへの出演でウィリアム・ワイラーの目に留まったオードリーは「ローマの休日」のヒロインに抜擢される。記録的大ヒットでたちまちスターの仲間入り。「パリの恋人」ではフレッド・アステアと共演。ダンスの神様相手に、複雑な振付を柔軟な肉体を駆使して人生の喜びや楽しさを表現するシーンは、今見ても斬新だ。「ティファニーで朝食を」では自由な女性像を提示し、社会に新しい価値観を植え付ける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

2度の結婚と離婚、プライベートを追われる窮屈さから、67年以降は出演作を絞りパパラッチ対策に悩まされる。その後、ユニセフ親善大使として新たな生きがいを見つけるオードリー。つなぎ合わされたフィルムは、「永遠の妖精」という彼女のイメージを壊さないように気遣いつつ、それでも年を重ねた彼女をじっくりと見つめる。首筋や目尻に衰えが見え始めても、その笑顔は輝きを失わない。ただ、50~60年代の映画界では監督やプロデューサーからのセクハラは当たり前。そこにも踏み込んでほしかった。

監督     ヘレナ・コーン
出演     オードリー・ヘプバーン/ショーン・ヘプバーン・ファーラー/エマ・キャスリーン・ヘプバーン・ファーラー/クレア・ワイト・ケラー/ピーター・ボグダノビッチ/リチャード・ドレイファス/アレッサンドラ・フェリ/フランチェスカ・ヘイワード/キーラ・ムーア
ナンバー     82
オススメ度     ★★★


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