こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エリザベス 女王陛下の微笑み

かつて「神聖ニシテ侵スヘカラス」と憲法に謳われた天皇とは違い、言動を批判もされるしパロディにもされる。それでも70年の長きにわたって君臨してきた彼女は自国民のみならず連邦を構成する国々の民衆からも愛され慕われている。映画は、英国エリザベス女王の人生を膨大なアーカイブ映像から俯瞰する。若き日に即位、その後現在に至るまで統合のシンボルの役目を果たし、平和の礎となってきた。チャーチル以来歴代の首相から政治経済国際情勢のレクチャーを受けてきたゆえに、新任の首相では太刀打ちできないほど世情に精通している。その、国民の委託を受けた権力のさらに上に立つ圧倒的な権威は頭上に頂いた王冠以上の重みと輝きを持つ。卒寿を過ぎてなお精力的に活動する姿は、日本の皇室にはないカジュアルさに満ちていた。

王室の傍系の一族だったが、直系の王が退位して王統を得、1952年に王位を継いだエリザベス。以来、第二次世界大戦後の激動の時代と世界の変遷を見守り続けている。

王室ウオッチャーによると、年代によって話し方やアクセントが明らかに変わっているという。若い時は張りのある声で明瞭な言葉を放っていたが、年齢を重ねるにつれ落ち着いた語りになるのは当然。そんな些細なことまでいちいちチェックされるのも彼女の人気ゆえだ。群集の前に馬に乗って現れた時、5発の発砲音に見舞われるテロまがいの行為に遭遇するも全弾空砲だったのは、反英勢力からも一目置かれている証拠だろう。一方で、ドレスデン訪問時には、大空襲の恨みから地元民から大ブーイングを食らう。それを大人の対応でいなし、女王の貫録を見せたのはさすがだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

身内の不祥事にも事欠かず、そのたびに批判の矢面に立たされてきたエリザベス。特にチャールズ皇太子の不倫と離婚、その後世間をにぎわしたダイアナの愛人問題。ダイアナのスキャンダラスな死を黙殺したのは、いかに彼女のふるまいを不愉快に思っていたかを想像させる。女王とて感情を持つ人間、慈しみの微笑みの裏に潜む本心が垣間見えた。

監督     ロジャー・ミッシェル
出演     エルトン・ジョン/ダニエル・クレイグ/マリリン・モンロー/ジョン・レノン/ノエル・カワード/オプラ・ウィンフリー/コリン・ファース/J・M・バリー
ナンバー     84
オススメ度     ★★★*


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