こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マイスモールランド

幼いころに来日したから言葉には不自由せず、それなりに地元に馴染んでいる。母語しか話せない同胞にも頼りにされている。だが、父の不在が少しずつ彼女を追い詰めていく。物語は、在日クルド人の女子高生がさまざまな困難に直面する姿を追う。エキゾチックな顔立ちはドイツ人といっても通用する。学校の成績もよくバイト先での評判もいい。ところが、父の難民申請は却下され就労許可も下りない。稼ぎ手がいなくなった家族、彼女は妹と弟の面倒を見なければならない。好きでもない男との結婚を迫るクルド人社会の世話になるのはイヤ。不法滞在者になってしまった少女がその若さを売る選択に迫られていく過程は、現代社会が抱える貧困問題を浮き彫りにする。もうどうしたらいいのかわからない、ひとりで問題を抱え込む彼女の小さな肩が切なかった。

大学進学のために放課後コンビニで働くサーリャは、バイト仲間の総太と仲良くなる。サーリャは総太にだけは心を開き、自らの出自を語り、自宅アパートに招待する。

華やかな民族衣装から床に座っての食事、絶対的な父権、にぎやかな飲み会といった故郷の習慣が色小濃く残る埼玉県南部のクルド人社会。土地を追われた人々に対し日本の入管の審査は厳しく、肉体労働で日銭を得るしかない。サーリャの父は真面目に働きつつましく暮らしているのに、一度職質を受けただけで身柄を拘束される。父はサーリャと総太の交友を快く思っておらず、一方で日本のリベラルな教育を受けたサーリャも旧弊に対する反抗期を迎えている。サーリャを取り巻く小さな世界は、外国人問題だけではなく、世代間の葛藤や恋愛、教育の機会など悩み事ばかり。小学校教諭を始め地元の人々が外国人に偏見を持っていないのが救いだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

コンビニもクビになり家賃も督促され大学にも行けないと知ったサーリャは進学資金に手を付ける。嫌われたくなくて総太には話せない。それでも、追い詰められたサーリャに父の思いが届く。彼女の艶やかな頬にこぼれる涙が深い余韻を残す。

監督     川和田恵真
出演     嵐莉菜/奥平大兼/アラシ・カーフィザデー/リリ・カーフィザデー/リオン・カーフィザデー/韓英恵/藤井隆/池脇千鶴/平泉成
ナンバー     90
オススメ度     ★★★★


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