こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

犬王

激しくかき鳴らした琵琶の熱気を帯びた音色とともに絶叫する様は、エレキギターを振り回すロックスターのよう。ステージを立体的に使ったダンスは、体操、ワイヤーアクション、ブレイキンを融合させたアクロバティックな振り付け。物語は、新進の琵琶法師が異形の踊り手とコラボして戦場に散った亡霊たちを慰める姿を描く。南北朝の動乱期、都の人々は盲目の楽師の語りに飽きていた。様式美に走った優雅な舞に退屈していた。斬新な娯楽に飢えていた彼らは、哀切を帯びた弾き語りや、極められたわびさびよりも、もっと直接魂を鷲づかみされるような強烈な体験を欲していた。それは誰もが参加できる一体感のあるパフォーマンス。既成の価値観に抗い感情を全身で表現するシーンは、虐げられた人々の想念が凝縮されていた。

失明して琵琶法師に弟子入りした友魚は都で修行中、ひょうたんの仮面をかぶった男と出会い意気投合。彼は能楽師の息子で犬王と名乗り、友魚とのセッションは人々に大いに受け入れられる。

盲目の友魚はまだ生きる手段が残されている。だが、ひょうたんの男は生まれた時から両親に疎んじられ、残飯で空腹を満たしていた。顔を見せず異常に長い右手を持ち、一方で受け継いだ才能は前例のない圧倒的な身体表現を可能にする。この2人が橋の上や河原で開くストリートライブは人々を熱狂に巻き込み、さらに、清水の舞台ではプロジェクションマッピング風の仕掛けまで見せる。現代風に翻訳された彼らの見世物は、アニメならではの目くるめく体験だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

将軍に招かれた2人はそこでも圧巻の演目で大絶賛を受ける。ところが、2人の人気を恐れた将軍は活動を禁じる。己の芸だけで社会の底辺から這い上がってきた2人の無念は、壇ノ浦に消えた平家の武者たちとつながっているのだろうか。ただ、躍動感あふれる映像は和風テイストが濃い分新鮮だったが、歌や音楽とのミスマッチがあまり機能せず、途中から室町時代が舞台とは感じなくなった。あと、草薙剣はどうなったの?

監督     湯浅政明
出演     アヴちゃん/森山未來/柄本佑/津田健次郎/松重豊
ナンバー     98
オススメ度     ★★*


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