こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オフィサー・アンド・スパイ

整列した兵士と柵越しに見つめる群衆の前で、軍帽を奪われ階級章をはがされ軍刀をへし折られる大尉。屈辱の中で無実を叫んでも誰も耳を貸さず、そのまま罪人として扱われる。彼に対する非情なまでの仕打ちが、宗教的偏見と売国奴への憎悪を象徴していた。物語は、19世紀末、スパイ容疑で流刑にされた将校の冤罪を晴らすために奔走する防諜機関部長の奮闘を描く。関係者は証拠がでっち上げと知っていた。前責任者は死んだ。ユダヤ人への反感から結審を急いだ。ところが、証拠とされた筆跡は明らかに容疑者のモノとは違う。部下は信頼できない。上官も蒸し返すなという。だが、ひとりの人生がかかっているうえ、己の正義まで曲げたくはない。事なかれ主義の中で主人公が孤立していく過程は、腐った組織を変えるには外部の強力な協力者が必要と訴える。

ドレフュス事件が冤罪と確信した情報部長のピカールは、独自に調査しつつ上官や大臣に再審の必要性を説く。誰も首を縦に振らず、逆にピカールは監視対象にされてしまう。

ピカール自身も反ユダヤ主義者、それでもドレフュスに濡れ衣を着せた本当の裏切り者が放置されたままなのが許せない。そして調べれば調べるほど有罪の根拠が崩れていく。にもかかわらず、真実の追求よりもキャリアに瑕がつくのを恐れた将軍たちはもみ消しの指示しか出さない。なんとか出版社や作家にコネをつけ信頼を得たピカールは、新聞を通じて論戦を張る。このあたり、19世紀末ですでに言論の自由を確立させていたフランスという国のデモクラシーの奥深さがうかがえる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で、ナチス時代のドイツのような反ユダヤ主義が吹き荒れた事実は、フランス人にとっての黒歴史だろう。その後、ピカールと支援者のおかげで「パピヨン」で知られた孤島から戻り、名誉を回復させるドレフュス。彼らが特別な感情でお互いを理解し合うなどという安っぽい結末には向かわず、ピカールはあれとこれとは別といったそっけない対応をする。2人を英雄に祭り上げない姿勢に好感が持てた。

監督     ロマン・ポランスキー
出演     ジャン・デュジャルダン/ルイ・ガレル/エマニュエル・セニエ/グレゴリー・ガドゥボワ/メルビル・プポー/マチュー・アマルリック
ナンバー     101
オススメ度     ★★★★


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