こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

君を想い、バスに乗る

残された時間はあとわずか、生きているうちにやっておかなければならないことがある。妻に先立たれた老人は小さなスーツケースひとつでバスの旅に出る。物語は、主人公が道中出会う人々とほんの少し交流しながら最果ての地を目指す姿を描く。カネはあまり持っていない、バスの無料パスだけが頼り。路線バスと長距離バスを乗り継ぎ、乗車・降車するたびに言葉を交わした老若男女に自分が生きた足跡を印す。荒涼とした丘陵地帯から都会に近づくと、少しずつ町も人情も洗練されていく。それとともに今まで暮らしてきた世界では体験できなかった新たな価値観との遭遇もある。その過程で思い出すのは、妻も自分もまだ若く未来が輝いて見えた時代。甘くて切ないノスタルジーが全編を貫き、ひとりの男の人生が凝縮されていた。

スコットランド東部の街からウェールズ最西端のランズエンドへ向けて出発したトム。ルートもホテルも綿密な計画を立てていたが、バスで寝過ごし親切な夫婦の部屋に泊めてもらう。

スマホなど持っていない。突然のハプニングにも助けを呼べず、なじみのない街でさまよったりするトム。基本的に人々は老人にやさしく、どこに行ってもだいたい好奇心と好意で迎えられる。特にニカブをかぶった女に絡むチンピラを退散させるシーンは彼の勇気を象徴していた。ただ、イスラム過激派の中では、全身を黒布で覆った女が自爆テロを起こすこともあるので、チンピラが警戒する気持ちも理解できる。現にフランスでは禁止されている。イスラム教徒を差別してはならないが、そこにつけこむテロリストもいるのだから。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

いちばん幸せだったのは、家族3人で過ごした1年間。今もあの頃の充足感は少しも色あせていない。そして味わった悲しみはいつも胸を締め付ける。愛する者に先立たれ、見ることのなかった未来を想像して生きる。妻との間は、平穏ではあっても喜びに満ちたものではなかったのだろう。やっとその思いから解放される時が来る、トムの表情は安堵に満ちていた。

監督     ギリーズ・マッキノン
出演     ティモシー・スポール/フィリス・ローガン
ナンバー     105
オススメ度     ★★★


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