こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ぼくの歌が聴こえたら

艶のある声は人の心に深く染み入る。抜群のテクニックで爪弾かれたサウンドは肉体をノリノリにしてくれる。だが、演奏中の姿を大勢の視線にさらすのには耐えられない。物語は、借金まみれの音楽プロデューサーが偶然発掘したミュージシャンと地方巡業をしながら信頼と友情を築いていく過程を描く。聴衆に見られないために大型冷蔵庫の空き箱の中に入る。狭い空間でギターをかき鳴らしながら歌う。それでも最初は失神するほど緊張した。こんな自分にツアーは務まるのか。自信を無くした若者にプロデューサーはそっと寄り添い負担にならないように励まし続ける。ゆく先々で2人は地元の有名店で食事をするが、パフォーマンスが成功した時は豪勢に飲食し、失敗したときはカップ麺をすすって痛飲する。それらの料理がバラエティに富んでいて食欲をそそる。

駐車場で耳にしたメロディに直感がひらめいたミンスは、演奏していたチフンを強引に口説き契約を結ぶ。2人は街頭ゲリラライブで投げ銭を稼ごうとするが、チフンの気持ちは落ち着かない。

聴衆は皆スマホを向けている。箱に空けた穴から外の様子を見るチフン。段ボール箱というSNS映えしない構図だが、それはそれでかえって物珍しいのかもしれない。西洋人のパフォーマーとのセッションではたくさんの投げ銭をもらったりもする。しかし、箱に入らずにナイトクラブのステージ上がると、たちまち心がざわついて演奏どころではなくなる。己の弱さは自覚している。ミンスが見守っているから大丈夫なのもわかっている。なのに、子供のころ受けたトラウマは消えない。過去を克服できずないチフンの号泣は、人間の弱さを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、音楽祭に参加したりキャンプ場でロマ音楽を体験したりして、チフンはひとり立ちできるようになる。ギターからピアノ、ドラムまで器用にこなす彼は、生まれつきのスターのよう。ありきたりな主人公の青春・成長の枠にはめることなく、チフンの歌を主役に据えるという割り切りは、少し物足りなさも覚えたが。

監督     ヤン・ジョンウン
出演     チャンヨル/チョ・ダルファン
ナンバー     109
オススメ度     ★★*


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