こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

峠 最後のサムライ

列強ひしめく欧州で中立を守ったスイスをモデルに、内戦中の日本で調停役となろうとした小藩の家老。そのためには武器を揃え兵を鍛えいざというときは実力行使も辞さない心構えが必要とされる。物語は、戊辰戦争中、新政府軍と旧幕府軍の仲介役に徹しようとした男の理想と現実を描く。藩と領民を守るためには敵に頭も下げる。粘り強く何度も嘆願する。それでも決裂すれば一戦構える覚悟、命の使い時と腹をくくっている。そして、圧倒的な兵力差があっても、不退転の意志で最後まで抵抗を続ける。大砲、小銃からガトリング砲まで、19世紀の兵器で戦闘が行われている中、もはや戦闘では使い道のない刀を手放さない武士たちの時代錯誤な矜持が哀しい。紛争を話し合いで解決するなど絵に描いた餅、平和を追求するためには武力が必要と主人公の背中は訴える。

旧幕府側についた長岡藩の家老・河合は戦さに巻き込まれないよう新政府軍の司令官に嘆願書を渡そうとする。だが交渉は不調、河合は長岡軍に戦闘の準備を命じ、新政府軍を迎え撃つ。

鳥羽伏見より戦ってきた新政府軍に対し、河合ら長岡軍には実戦の経験などなかったのだろう。地図上で作戦を練り、奇策・奇襲で敵を翻弄するが、あまりダメージを与えることはない。逆に新政府軍に意表を突かれてあっさり劣勢に回る。その過程で、信じていた価値観の転換や追い求めていたモデルの崩壊など、河合が感じる絶望が滅びの美学のごとく扱われることはなく、エモーショナルな盛り上がりはない。天下国家を語るのではなく、あくまで求めるのは領地の安寧。河合を大義に殉じたヒーローではなく、“残念な人” として再現するあたり共感が持てた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、長岡藩の置かれた状況を説明するために、仲のいい医師との会話がややもすれば解説調になっている。これは、登場人物の心情をすべてセリフにしてしまう昨今のアニメの影響だろうか。また、河合の妻を演じた松たか子に “ありのままに生きる” などと言わせている。いまだに “let it go” なのは失笑した。

監督     小泉堯史
出演     役所広司/松たか子/香川京子/田中泯/永山絢斗/芳根京子/東出昌大/佐々木蔵之介/吉岡秀隆/仲代達矢
ナンバー     111
オススメ度     ★★*


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