こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

わたしは最悪。

知能は高く成績もいい。医学を志したけれど心理学に転向した。でもフォトグラファーの修行をしたりもする。物語は、いまだ人生の方向性を決められないアラサー女の心の彷徨を描く。美貌ゆえに男には不自由しないけれど、新たな恋を見つけたと思っても落ち着かない。幸せだが平凡な日常が続くとつい破壊衝動に駆られてしまう。そしてその原因が相手にあると確信し決して反省や謝罪はしない。男にとっては、恋人としてはエキサイティングだけれど、一緒に暮らすと神経をすり減らしてしまう存在。そんな厄介なヒロインの複雑な感情をレナーテ・レインスベが繊細な表情の変化で表現していた。にこやかに会話を交わしていたかと思うと突然不機嫌になる彼女、その地雷をいつ踏んだのかわからずあたふたする男たちのリアクションがリアルだった。

コミック作家のアクセルと知り合いたちまち恋に落ちたユリアは、彼と同棲を始める。だが、子供を欲しがるアクセルの目を盗んで、パーティで知り合ったアイヴィンと一夜を過ごす。

結婚を拒んでいるわけではないが、まだ子供を欲しいとは思っていないユリア。このまま数十年後が予想できるような人生は送りたくない。未熟なのは自覚しているけれど、なにか特別なものが己の中に眠っていると信じたい。アクセルとの世界の時間を止めてアイヴィンに会いに行く彼女の生き生きとした姿は、ありのままに生きる素晴らしさと無責任さを象徴していた。それでもその瞬間、わがまま放題で回りの男たちを振り回してばかりの彼女が魅力的に見えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アクセルのコミックが映画化されるが、毒を抜かれて彼は気落ちしている。そればかりか、ラジオの対談でフェミニズム系批評家から強烈に批判される。そのシーンは、“自分が不快に思った作品に対しては表現の自由や芸術的価値を認めない” というポリコレ的リベラルの浅薄な闘争心が透けて見えた。なぜ彼女たちは民主主義が権力から勝ち取った権利を自ら放棄するのだろうか。映画の中の設定とはいえ、現実にも起きている。

監督     ヨアキム・トリアー
出演     レナーテ・レインスベ/アンデルシュ・ダニエルセン・リー/ハーバート・ノードラム
ナンバー     123
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/worstperson/