こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

リコリス・ピザ

ひとめ惚れした相手は10歳も年上の女。15歳の彼は必死に話しかけ、なんとかデートの約束を取り付ける。物語は、少年と女の奇妙な恋の顛末を描く。少年は子役俳優としてキャリアを積んでいる上、事業欲も旺盛で未来に一点の不安も抱いていない。いまだ進むべき道を見つけられない女は、彼との出会いで運命を変転させていく。成熟した大人の女が未熟な少年に人生の機微を伝えるというありきたりなパターンには見向きもせず、映画はひたすら予想外の展開に見るものを引きずり込んでいく。うまくいきそうになると障害が現れ、気まずくなって距離を取ると相手の良さに気づく。不器用でぎこちないけれど、切ないほどにいとおしい。そんなふたりの冒険が圧倒的な疾走感で再現されていた。ビジネスの開業資金は誰が融資したのだろうか?

ゲイリーは学校で知り合ったアラナに熱烈告白。その後、NYでの撮影に保護者として彼女に同伴してもらう。だがアラナは道中知り合ったゲイリーの俳優仲間・ランスにあっさり乗り換える

ゲイリーは様子のおかしいアラナにランスを騙って電話するが、うれしそうな彼女の声にすべてを悟り黙って受話器を置く。その後、ユダヤ教徒のアラナの家に招かれたランスが習慣を無視してアラナの父と大喧嘩する。一方のゲイリーも自分の店を訪れた少女と懇ろになりアラナを失望させたりする。このあたりの登場人物の繊細な感情が非常にリアルかつディテール豊かに再現され、おかしさの中にも懐かしさと共感を覚えてしまった。大物俳優に振り落とされたアラナを心配して全力疾走するゲイリーの姿は、駆け引きなしの恋が一番美しいと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

コードの長い壁掛け電話、ウォーターベッド、ニクソンオイルショックピンボール、もみあげやあごひげなど、1970年代前半を象徴するアイテムが懐かしい。なによりノーブラのアラナが当時のウーマンリブを思い出させる。世間は停滞していても彼らは走り続ける、米国の発展は若いエネルギーが支えているとこの作品は教えてくれる。

監督     ポール・トーマス・アンダーソン
出演     アラナ・ハイム/クーパー・ホフマン/ショーン・ペン/トム・ウェイツ/ブラッドリー・クーパー/ベニー・サフディ
ナンバー     124
オススメ度     ★★*


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