こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

WANDA ワンダ

夫との愛は冷めた。子供の世話もやる気が出ない。貧困には慣れたが、将来に希望が持てない人生にはうんざりしている。それでも、街に出ると男たちが声をかけてくる。物語は、夫から離婚を言い渡された女が思わぬ事件に巻き込まれる過程を描く。もう行くところはない。カネも盗まれた。ビールをおごってくれる男についていけば、とりあえず食事と休息は確保できる。もはや考えることも億劫だ。そんな、男たちの言うなりに行動するヒロインの、あきらめに似た倦怠感がリアルに再現されていた。雑に扱われても怒るでもなく受け入れてしまう彼女の自己主張のなさは、現代の基準から見たらありえないほどの従順さ。手に職を持たず知識や勤勉さもない、ただ流されるように過ごしてきた女の悲劇が凝縮されていた。

離婚調停後、カフェで中年男にナンパされモーテルに行ったワンダは置いてきぼりを食う。夜、トイレを借りにバーに入ると、居合わせた男に同行を求められ、ワンダは彼のクルマに乗る。

法廷での夫の証言では、ワンダは基本ぐうたらで家事育児を放棄している。ワンダも反論しない。働いていた工場でも仕事が遅いと再就職を拒まれる。生活ための能力は初めから欠けていて、向上心もない。一方で、男好きする容貌ゆえに、選ばなければ相手には困らない。きっと若いころは美人でちやほやされていたのだろう。だが、中年に差し掛かるとともに輝いていた時代は去り、日常生活という現実に向き合わなければならないのに、その覚悟はできていない。人間の弱さを象徴する怠惰、彼女のような自助努力しない “弱者” は、1970年ごろの米国では福祉の対象にはならなかったのだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

デニスと名乗る男は殺人事件を起こしたらしい。彼が盗んだクルマに同乗するワンダは別段嫌がる様子はない。かといって、逃避行という非日常に運命を感じているわけでもない。しくじりそうになったデニスを助けて褒められた時、ワンダは微笑む。自己肯定感が低い彼女が初めて見せる感情はわずかな希望に思えた。

監督     バーバラ・ローデン
出演     バーバラ・ローデン/マイケル・ヒギンズ/ドロシー・シュペネス/ピーター・シュペネス/ジェローム・ティアー
ナンバー     127
オススメ度     ★★★


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