こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

セイント・フランシス

自分の時間は止まったままなのに、世界はどんどん流れていく。気が付けばもう30代半ば、未来への展望はほとんど期待できない。物語は、定職につかないまま年齢を重ねる人生に疑問を持ち始めた女が、新しい出会いを通じて自らを見つめなおし希望を見出していく過程を描く。ひとりでいるのは気楽だが、ふとした瞬間にむなしくなる。言い寄ってくる男にも不自由していないが、体調を理解してもらえない苛立ちは隠せない。そんな時見つけた、女同士だからこそ分かり合える繊細な感情。異人種同性愛カップルとその娘、彼女たちとは価値観が違うが、それでも共感し助け合う部分もある。男にはわからない、生理、妊娠、出産、中絶、不正出血、尿漏れ、授乳といった “女の悩み” がリアルに再現されていた。

ニート生活を続けるブリジットは、マヤとアニーの娘で6歳の少女・フランシスの子守りになる。フランシスは自己主張が強く口達者で、ブリジットに対して反抗的な態度をとる。

公園で遊んでいると、ブリジットを「自分の親ではない」と叫び警察沙汰にする悪知恵は誰がフランシスに教えたのだろうか。まだ小学校就学前なのに己の遺志を通すために理屈っぽく話すフランシスの明晰さは不自然なほどだ。フランシスの利発さよりも、両親が2人とも母であることで被る差別や自身のさみしさなどがにじみ出ていればもう彼女に少し寄り添えたのだが。一方で、教育を受けるチャンスがあるのに自らそれを捨てたブリジットの冴えない現状は自己責任であると、再会した古い友人との対比で表現するあたりは洗練されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

公園でマヤが乳児に母乳を与えていると、そばにいた別の母親が場所をわきまえろとクレームをつけてくる。普段、女性の乳首は性的なものと子供の目から隠すのが現代のリベラル的な価値観のはずなのに、授乳は別の話とマヤもブリジットも反発する。このあたり、自分たちが気に入らない価値観を攻撃するばかりで論理に一貫性のない昨今の「左翼的リベラル」の底の浅さを皮肉っていて痛快だった。

監督     アレックス・トンプソン
出演     ケリー・オサリバン/ラモナ・エディス=ウィリアムズ/チャーリン・アルバレス/マックス・リプシッツ/リリー・モジェク/ジム・トゥルー=フロスト
ナンバー     154
オススメ度     ★★★


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