こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

秘密の森の、その向こう

森の中で声をかけてきた女の子は、自分に似た風貌をしている。初めて会ったのに他人とは思えない。名前をたずね家に遊びに行くと彼女が誰だかを理解する。物語は、遺品整理のために祖母の家に滞在した少女が体験する、不思議だけれど暖かい時間の歪みを描く。枯れ枝を組んだ秘密基地、古いボードゲーム、クレープ作りetc. 無邪気な遊びを通じて2人はすぐに仲良くなる。些細な現象に嬌声をあげ、見つめあうと意思が通じる。まるで双子の姉妹のようにお互いの気持ちが手に取るようにわかる。秋深く紅黄の葉が色を増す木々と地面、どんよりと曇った空、最低限の光しかない室内。気分を重くさせるような風景の中で、ミニマルな世界に浸って友情の絆を強めようとする幼い少女たちは無邪気な輝きを放っていた。

両親と共に死んだ祖母の家を訪ねたネリーは、母・マリオンから少女時代のノートなどを見せられる。翌日、マリオンが急に姿を消すが、ネリーはマリオンという同世代の女の子と知り合う。

ネリーはすぐに彼女が子供時代のマリオンだと気づき、それを口にする。遺伝性の病気の手術を直後に控えているマリオンは、不自由な生活が待っているかもしれないと思うと不安で仕方がない。マリオンは未来の自分がどうなっているのかとネリーに問う。だが、健全なネリー自身が、マリオンの人生に不都合のなかった証拠。ネリーはマリオンに寄り添うことで、マリオンはネリーに心を開くことで、「森の外」という現実世界では省略されていたお互いの思いを伝えるようとする。少女たちが戯れているだけなのに、そこにあふれる感情は無限の信頼と愛情に満ち溢れていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

マリオンの母、つまりネリーの祖母は足が悪く杖をついている。ネリーは祖母の遺品の中から杖を持ち帰っている。祖母、母、娘。母系にのみ伝わる「腹を痛めて産んだ子」というつながり。それは女だからこそ実感できる命の継承なのだ。ジェンダーフリーが叫ばれる時代で、あえて母性本能をテーマに据えた映像は、母の温もりを思い出させてくれた。

監督     セリーヌ・シアマ
出演     ジョセフィーヌ・サンス/ガブリエル・サンス/ニナ・ミュリス/マルゴ・アバスカル/ステファン・バルペンヌ
ナンバー     181
オススメ度     ★★★


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