こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ドライビング・バニー

まともな仕事には就けず、路上で日銭を稼いでいる。住む家もなく、転々と居候している。それでも自分の子供たちには会いたい。幼い娘の誕生日を祝ってやりたい。物語は、犯罪歴ゆえにまともな社会生活を送れない女の怒りと暴走を描く。更生して真面目に生きようとはしているのに、子供たちとの面会ルールを守れない。福祉に頼っても、役人たちは “素行の悪い母親から子供を守る” といって、彼女の言葉に聞く耳を持たない。確かに直情的なところがある。粗暴なふるまいに走りがちなところもある。杓子定規な規定に縛られるのが我慢できない。だが、子供たちに対する思いは誰よりも強い。そしてそれは彼女が生きる希望でもある。愛ゆえの衝動に彩られた映像は、60年代米国ニューシネマのような哀切に満ちていた。

盗んだクルマで継父に性的虐待を受けている姪・トーニャを連れだしたバニーは、保護中の長女の誕生日を祝おうと福祉局を訪ねるが、子供たちが別の場所に移されたと告げられる。

濡らしたペーパータオルで脇をぬぐうだけで着替えも持たず、ほとんどホームレスのような格好だったバニーが、支援団体で服と靴を借りてちょっと化粧をすると見違える。不動産屋を騙し、都心部の高級アパートでトーニャと一夜を過ごす。広く眺めのいい部屋、清潔なシーツで眠ったのは何日ぶりなのだろうか、2人は束の間の解放感を満喫する。格差の底辺で貧困にあえぐバニーと我慢せざるを得なかったトーニャ。女に生まれた不幸ばかりを背負った彼女たちのやり場のない不満がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

子供たちが住む町の福祉局に押し掛けたバニーは指名手配されていると知り、女性職員を人質にとって籠城する。ほどなく警察に包囲され事態は膠着する。その間、刃物を突き付けられた女性職員は表情一つ変えずにバニーに対応し、決して抵抗せず投降を進めたりもせず彼女に理解を示す。根は善良なのについ短慮を抑えきれない女たちを何人も見てきたのだろう。その悲しみに満ちた瞳が印象的だった。

監督     ゲイソン・サバット
出演     エシー・デイビス/トーマシン・マッケンジー/エロール・シャンド/トニ・ポッター/シャナ・タン
ナンバー     184
オススメ度     ★★★★


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