こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スペンサー ダイアナの決意

あらゆるスケジュールが管理され言動が監視される。心休まるひとときのはずだった息子たちとの語らいもどこかぎこちない。物語は、夫の不倫に耐えながら王族と国民の冷視線とも闘う王太子妃の孤独と苦悩を描く。帰りたいと思っても実家は廃墟になっている。女王の豪奢な別荘は寒くても暖房を入れてもらえない。唯一信頼できる衣装係も去った。世界中から祝福されて王家に嫁いだのは遠い昔、今はどこにも居場所がない。牢獄のような生活、もはや精神的にも追い詰められている。自分がどういう立場なのかはわかっている。その覚悟で結婚した。なのに、ままならない現実に彼女は蝕まれていく。非業の死を遂げた王妃に己を重ねる彼女のやり場のない怒りと絶望を、クリスティン・スチュアートが繊細な表情の変化でリアルに再現していた。

クリスマスを過ごすために女王の別荘に呼ばれたダイアナはわざと遅刻する。夕食の席では王太子から贈られた真珠のネックレスをつけるが、それは不倫相手と同じものだった。

人前に出るときはどのドレスを着るか決められている。屋敷の外に出ようとしても警備員が見張っている。部屋にいるとカーテン越しにパパラッチが狙っている。そして彼女についての情報はすべて執事にあげられる。息が詰まるような時間と空間、常に緊張とあきらめといら立ちが付きまとう。それでも母としての務めだけは果たそうとする。両親の事情に感づいていながらも具体的には口に出せず、傷ついたダイアナをなんとか慰めようとする長男の、か弱い女に対して大人の男として振舞おうとする背伸びした対応が印象的だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

クリスマスの集いをやり過ごしたダイアナだったが、息子たちがキジ撃ちに参加することには我慢ならない。幻覚の中の王妃は彼女に逃げろとアドバイスする。この環境でずるずると年老いていく未来を想像すると、彼女は行動するしかないと決意を固める。その後の彼女に降りかかる運命がわかっているだけに、フライドチキンに込められた自由への思いが味わい深かった。

監督     パブロ・ラライン
出演     クリステン・スチュワート/ジャック・ファーシング/ティモシー・スポール/サリー・ホーキンス/ショーン・ハリス
ナンバー     195
オススメ度     ★★★*


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