こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

窓辺にて

怒るべき時に自制が働いてしまううちに、怒り自体を感じなくなった。冷静に対処しているうちに悲しさにも鈍感になった。彼のやさしさは、いつしか相手にとって手ごたえのない無関心に思えてくる。物語は、妻の浮気にショックを受けなかったことがショックだったという男が、様々な人々とかかわるうちに己を見つめなおしていく過程を描く。いつもさわやかな笑顔で、敵を作らない。物腰は柔らかで、他人を退屈させない気遣いも持っている。友人の悩み事には真摯に耳を傾けるが、具体的なアドバイスはしない。そんな彼を中心に、男女数人の会話が長回しのショットで延々とつづられていく。そして彼らが取る行動は、日常の些細な出来事にもきっと何らかの意味があって、それらにきちんと向き合うか見なかったふりして素通りするかで人生は違ってくると訴える。

文学賞受賞会見で女子高生作家・留亜に呼び出された市川は、彼女のボーイフレンドを紹介される。そのボーイフレンドとバイクに2人乗りすると、市川はかつてない解放感を味わう。

市川の妻・紗衣は、担当している流行作家と不倫している。相手は本気だが紗衣は彼の気持ちを受け流している。市川は紗衣が密会帰りでも口には出さず、紗衣も市川が知っているのに気づいていて何もなかったように装う。夫婦としては終わっているのに、今の表面的な平穏を保つことを優先し、決定的な話はできるだけ先延ばししようという大人の配慮。もう修復できないとわかっていながらもお互いに優しさを見せるふたりの煮え切らない態度が夫婦として過ごした年月を物語っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

友人の有坂夫婦に紗衣のことを話した市川は、有坂の妻・ゆきのに追い返される。ところがその後にゆきのは有坂の不倫について市川夫妻に相談に来る。さらに市川は留亜と彼女のボーイフレンドにも個別に相談されたりする。このあたりのごちゃごちゃした人間関係は、人はだれしも悩みを持っているが、それを誰かに打ち明けた段階でほとんどが解決するということを教えてくれる。

監督     今泉力哉
出演     稲垣吾郎/中村ゆり/玉城ティナ/若葉竜也/志田未来/佐々木詩音/松金よね子
ナンバー     160
オススメ度     ★★★*


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