こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ケイコ 目を澄ませて

何かを伝えようとしているのはわかる。でもまったく理解できない。だれもがマスク生活をしていた頃の東京、ヒロインはいちいち相手に口の動きが見えるように促さなければならない。聴覚障害者の不便さ、生きづらさがリアルだった。物語は、古びたジムに通う女子ボクサーと彼女を見守る人々の交流を追う。自分を守るために、基本的には健聴者に対して壁を作っている。親しくなった人に少しは心を開くが、喜怒哀楽まで見せることはほとんどない。境遇に怒っているようでもある。人生の意味を見つけようとしているようでもある。道路を走る自動車の振動音、工事現場のリズミカルな金属音、人々が行きかう雑踏の生活音。それら日常の雑音は彼女には聞こえない。その閉ざされた孤独ゆえの葛藤が彼女を強くする。

プロデビューもしているケイコは、昼間はホテルの清掃係をしながら、早朝のロードワークと夕方のジムワークは欠かさない。ジム会長はそんな彼女を温かく見守っている。

ケイコは試合を控えているが、会長は健康状態と後継者不在で廃業を決意、会長はケイコの移籍先として女性が会長を務める真新しいジムを紹介する。同行したトレーナーが女性会長に頭を下げ、女性会長が手話で必死にケイコの機嫌を取ろうとしているのに、ケイコはその話を断る。周囲がケイコに配慮しているのに、彼女はそれが気に食わない。このあたり、健常者の価値観を障害者に押し付けている現実を強烈に皮肉っていた。人と適切な距離感を保つ難しさは、コロナ禍で一層浮き彫りにされている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ケイコは体重管理しないが、競技人口が少ない女子では当たり前なのか。また、試合のシーンでパンチが当たるとパンパンと破裂音がするが、グローブで人間の肉体を殴ったときはドスッといった低く重い衝突音がするものだが。ジムも、古い割にはミットやグローブが新しく、建物や道具に染み付いたむせ返るような汗の臭いが映像からは感じられなかった。イマドキのジムは女子練習生に配慮して消臭しているのだろうか。。。

監督     三宅唱
出演     岸井ゆきの/三浦誠己/松浦慎一郎/佐藤緋美/中原ナナ/渡辺真起子/中島ひろ子/仙道敦子/三浦友和
ナンバー     236
オススメ度     ★★*


↓公式サイト↓
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