こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カンフースタントマン

どんな危険な擬闘を提示されても、できないとは絶対に言わない。断るともう仕事の依頼がなくなるという恐れもあるが、なによりもプロの矜持が許さない。映画は、命がけのアクションで世界中に衝撃を放った香港映画を支えたスタントマンたちの熱き日々を回想する。日帝中共の進出を嫌って大陸から逃れてきた京劇関係者たちが開いた俳優養成学校で才能を見出され徹底的に身体能力を鍛えられた少年たちが、アクション映画に活路を見出し活躍の場を広げていく。ブルース・リーの登場でカンフーがブームになると、スタントにも積極的に取り入れられ、ハリウッドにはなかったスタイルを確立していく。防具をつけないまま高所から飛び降りコンクリートに叩きつけられても泣き言を口にせず体を張る男たちの生き様は、鮮烈な輝きを放っていた。

1970年にゴールデン・ハーベスト社が設立される。ブルース・リー、ジャッキーチェン、サモ・ハンらのカンフーアクションが世界で認められると、香港映画のトレンドが一変する。

いまだ映画界にかかわっているサモ・ハンは当時の思い出を語る。打撲骨折は日常茶飯事なのに保険にも入っていない。それでも人間業とは思えない身のこなしでスクリーン狭しと暴れまわる。肉体の痛みに耐えながら派手な「やられ役」に徹するスタントマンたちは相当な収入を得ていたという。だが、どれだけ鍛えていても40歳を過ぎるときつくなっていく。現代では考えられないほど低い人権意識、ある意味監督からのパワハラと解釈されてもおかしくない労働環境下でも圧倒的な熱量で作品のために尽くす。生身の肉体が激突し骨がきしむような映像は、決してCGでは再現できない痛みリアリティを伴っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

2大スタジオは撤退し、次第に輝きを失いつつある香港映画界。中共の締め付けもあり、もう自由な映画を作ることができなった。それでも、スタントマンを目指す若者のための養成学校は今も盛況。今後は北京や上海に活躍の場を求めるのだろうが、闊達な空気がしぼみそうな気がして残念だ。

監督     ウェイ・ジュンツー
出演     サモ・ハン/ユエン・ウーピン/ドニー・イェン/ユン・ワー/チン・カーロッ/ブルース・リャン/ツイ・ハーク/アンドリュー・ラウ/エリック・ツァン
ナンバー     201
オススメ度     ★★★*


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