こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ひみつのなっちゃん。

あんなに仲良くしてもらっていたのに。アウトサイダーとして生きていく上での師匠だったのに。彼のプライベートについては何も知らなかった。物語は、突然死したドラァグクイーンにきちんと別れを告げるために、彼の故郷までドライブする3人のおかまの旅を描く。素性も過去も一切語らなかった彼は、自宅すら他人に教えていなかった。たった1人の家族だった母親とも疎遠になっていた。こちらの世界に来た以上、向こうの世界に置いてきた人間関係は捨ててきた。なのに、親しい仲間にも心を開いていなかった。人前では明るく振舞っていたのに、内面に抱えていた計り知れない孤独。性的少数派として、それを商売にして生きる人々の連帯感と寂しさがコミカルに再現されていた。人前で踊るときはわき毛を剃っておいてほしかったが。

世話になったなっちゃんが死んだと連絡を受けたバージンは、モリリン、ずぶ子と共に遺品整理、おかまだった痕跡を消そうとする。そこに彼の母が現れ、3人を郡上八幡での葬儀に誘う。

なっちゃんだけでなく、バージンら3人も家庭内や学校で「普通でいろ」と言われ、「普通」とは何かずっと疑問に思って生きてきたのだろう。体は男で好きになるのも男。いつの間にかオネエ言葉が身についている。馬鹿にされ人格を否定される日常から逃げ出したくて同士の集まる街に流れてきた。ここでは、世間の「普通じゃない」が普通。ところが、彼らは町を離れても、意外に同士がいることに気づく。一般の人々も嫌悪感を表に出したりはしない。ズブ子はTVで人気者になっている。すっかり市民権を得たかに見えるLGBTQたちの現実。むしろ異端視されていた時代のほうが、特別感があったという皮肉が効いていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

郡上八幡に到着した3人はなっちゃんの葬儀に参加、参列者に彼の性的指向がばれないようにふるまう。でもみんな知っていて知らないふりをしている。それは暗黙の了解。そんな彼らの気持ちを汲み取った上での母親の気遣いは、母親が一番息子を理解していると訴えていた。

監督     田中和次朗
出演     滝藤賢一/渡部秀/前野朋哉/カンニング竹山/豊本明長/本多力/岩永洋昭/生稲晃子/菅原大吉/本田博太郎/松原智恵子
ナンバー     208
オススメ度     ★★★


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