それなりの示談金はもらった。なかったことにするのは悔しいけれど、いまさら蒸し返しても古傷に塩をすり込むだけ。物語は、大物プロデューサーからセクハラを受けた女たちを探し出し、実名告発させた新聞記者たちの奮闘を追う。相手は業界内に絶大な影響力を持ち、逆らったら仕事を干されてしまう。口をつぐんで我慢していても、時々つらい記憶がよみがえってくる。そんな被害者たちの名を関係者から聞き出し、ひとりずつ電話をかけ、時に面会しては説得する。封印した過去をこじ開けられることに誰もが最初は拒否反応を起こすが、あの時に味わった恐怖や無力感、屈辱を思い出すうちに怒りがこみあげてくる。 “あなたに起きたことは変えられないけれど、大勢の人を救うことはできる” というセリフは調査報道の神髄だ。
ハリウッドの権力者・ワインスタインから性的侮辱を受けたとアシュレイ・ジャドが訴える。ジョディとミーガンは周辺取材を始めるが、被害者には厳重なかん口令が敷かれていた。
公的な機関はまったくあてにならない。被害者たちは法的にも立場が弱く高圧的な弁護士に沈黙を強いられている。それでも、ジュディやミーガンが何度もコンタクトを取るうちに重い口を開く。そこで語られるのは生々しいセクハラの実態。ワインスタインは立場を利用して女たちに性的な行為をしつこく要求するのだが、決して暴力的な強姦はしない。判断力を失った女たちはパニックになるか逃げだすか、結果的には心に大きなダメージを負う。もっとスマートに性欲を解消する方法があるはずだが、側近たちは何をしていたのだろう。彼女たちが嫌がることを無理強いするワインスタインの卑劣さには嫌悪感を催した。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ジュディたちのスクープはその後の#MeToo運動に発展するが、一方でワインスタインの要求をセクハラではなく口説き文句と理解し受け入れた女もいるはず。その線引きは当事者にしかわからないが、苛烈な糾弾に対してはカトリーヌ・ドヌーブの声明を思い出す。誰にでも「口説く自由」はあるのだ。
監督 マリア・シュラーダー
出演 キャリー・マリガン/ゾーイ・カザン/パトリシア・クラークソン/アンドレ・ブラウアー/ジェニファー・イーリー/サマンサ・モートン/アンジェラ・ヨー/アシュレイ・ジャッド
ナンバー 8
オススメ度 ★★*