こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

そして僕は途方に暮れる

「世の中はぬるま湯。逃げて逃げて逃げ続けろ、追い詰められたら “面白くなってきやがったぜ” と思え」。恋人や友人、姉や母、ちょっと面倒くさい事態に直面するとすぐに荷物をまとめて敵前逃亡し人間関係を台無しにしてしまう主人公への、父のアドバイスが秀逸だ。物語は、他人に寄生するようなライフスタイルを貫く男の彷徨を追う。居候しているのになぜか図々しい。甘え上手で人の懐にすんなりと入っていく。でも相手の堪忍袋の緒が切れると反論も言い訳もせずに退散する。このままではいけないと頭の中ではわかっていても行動に移せない男を藤ヶ谷太輔が好演、クズ男にリアリティを持たせていた。生産性はゼロで向上心も責任感もない彼を好意的に描いているあたりがむしろすがすがしい。

ヒモ状態で同棲している恋人に浮気がばれた裕一はきちんと話し合おうともせずに部屋を飛び出す。親友のマンションに転がり込むが、そこでも一週間で険悪になる。

その後も知人・家族の住居を転々とする裕一。自分の面倒は見てほしいけれど、プライベートな領域に干渉されたり説教されたりするのはイヤというスタンスを貫くがゆえに、彼らの厚意を消費した後は肩身が狭くなる。そして再会した父。母と離婚後は住所を転々とし、働きもせずぶらぶらしている。裕一の性格はすべて父の遺伝なのだが、裕一ですら声を荒げてしまうほどの父のクズぶりはあっぱれというほかない。孤独なはずだが寂しそうには見えない。カネがなくても楽しそう。むしろ他人とかかわらない生活に居心地の良さを覚えている。裕一をすんなり受け入れたのは、自分に似た息子に対して興味がわいたからだろう。こいつはオレよりクズなのかどうかという。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

母急病の知らせを聞いた裕一は、実家に戻る。図らずも迷惑をかけた関係者が集合している。そしてつるし上げ。形だけ頭を下げて心を入れ替えるようなことを口にするが、本心はその場をしのげればいいと思っているのだろう。そんな裕一の生き方は、後輩が言うようにカッコよかった。

監督     三浦大輔
出演     藤ヶ谷太輔/前田敦子/中尾明慶/毎熊克哉/野村周平/香里奈/原田美枝子/豊川悦司
ナンバー     15
オススメ度     ★★★★


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