こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ピンク・クラウド

空にたなびくピンク色の雲。街中に鳴り響く警報。帰宅する術を奪われた人々はすぐ近くの建物内に避難し、雲との接触を防がなければならない。物語は、有毒ガスの蔓延でロックダウンされた都市で生きるカップルの日常を描く。すぐ元の暮らしに戻れると高をくくっていた。だが雲は一向に消えない。部屋から一歩も外に出られない生活、はじめのうちは労り慰め合い、やがて愛しあうようになるが、考え方の相違から険悪になっていく。子供ができても鎹にはならず、上下階に居室を分けてもやっぱり逃げ場がない。そんな、波長の合わない男女が同居する気まずさがリアルに再現されていた。そして終わりが見えない絶望。この現実に順応して新たな希望を見出すか、それともVR空間に現実逃避するか。もはや “現実” の定義すら曖昧な世界、人生の意味を問う姿はあくまで哲学的だった。

高層アパートに閉じ込められたヤーゴとジョヴァナ。子供が欲しいヤーゴの考えをジョヴァナは否定するが、ほどなくジョヴァナは妊娠、男の子が生まれる。

ふたりは恋人同士なのではなく、前夜たまたまセックスしただけの関係のようだ。仕方なく同棲状態になった彼らは、お互いの素性を少しずつ知っていく。一方、買い物に出られない分生活必需品は自宅に配給され、電気も水道も通販も機能しているため、引きこもっている限り命の危険はない。子供ができたことで父親と母親の役目を担うことになるが、夫婦の絆は生まれない。閉塞感を打開するために “別人ごっこ” をするシーンは、刺激の少ない日々の中で精神のバランスを保つことがいかに困難かを訴えていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、雲発生初期ならわかるが、戸外で活動している人もいるのだから、1年も経てば防護服や移動用のチューブ等が整備されるはずだ。設定に先見の明があることは認めるが、コロナ禍がこの映画の想定をはるかに追い越してしまった。つくり手にとっては不運だろうが、地球上のほとんどの人があれを経験してしまった今ではちょっとツッコミ所が多くなってしまった。

監督     イウリ・ジェルバーゼ
出演     ヘナタ・ジ・レリス/エドゥアルド・メンドンサ/カヤ・ホドリゲス/ジルレイ・ブラジウ・パエス/ヘレナ・ベケル
ナンバー     19
オススメ度     ★★*


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