もう十分に生きた。楽しい人生だった。体の自由が利かず介護なしには生活できなくなった今、もう思い残すことはない。物語は、脳卒中に襲われた老人が自ら尊厳死を願い、娘たちが望みをかなえようと奔走する姿を描く。本人の決意は固く、娘たちも同意せざるを得ない。だが国内では犯罪になるため密かに出国しなければならない。その過程で山積する手続きと反対の声。ネットで検索し、援助団体を探し、打ち合わせをし、公証人の元で何度も意思を確認し、その一方で医師・看護師や警察に知られずに実行しなければならない。生きる権利は手厚く保証されているのに、なぜ死ぬ権利は与えてくれないのか、人間としての尊厳をなくす前に自らの命を絶ちたいだけなのに、それを認めない現行制度。その不備はプライドが高い人には残酷に働く。
脳卒中で倒れたアンドレは娘のエマニュエルとパスカルに「もう終わらせてくれ」と頼む。エマニュエルはスイスの尊厳死協会に接触、クリアすべき問題点のレクチャーを受ける。
アンドレは同性愛者なのだが異性婚で2人の娘がいる。見舞いに来た妻が非常に冷たい態度を取ったり、貧しい身なりの男が彼に付きまとったりと、性愛関連の人間関係は少し複雑。エマニュエルはそんなアンドレの気持ちを理解し妹のパスカルと協力して計画を進めるのだが、アンドレの口が軽く情報が洩れてしまう。個人主義が徹底したフランスならば死という選択も自由なのかと思ったが、法律に触れるばかりではなく「自殺」に対する嫌悪感も残っている。そのあたり、情緒的に流されることなく出来事だけをカメラは淡々と追う。抑制の効いたトーンの中でリアルな感情がぶつかり合うシーンの連続は、死をめぐる人間の真実に迫っていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
もちろん遺産目当てで尊厳死に追い込むような事例が起きるかもしれない。犯罪に悪用される可能性もある。それでも、回復の見込みもないのに医療機器に生かされている状態を続けるのはやはり人権侵害。尊厳死・安楽死に理解ある世界になってほしいものだ。
監督 フランソワ・オゾン
出演 ソフィー・マルソー/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディン・ペラス/シャーロット・ランプリング/エリック・カラバ
ナンバー 20
オススメ度 ★★★★
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