こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

バビロン

広大な平原に簡素なセットを組みカメラを回す。控室として設営されたテントと日傘以外、太陽を遮るものはない。撮影はすべて屋外、照明は降り注ぐ太陽光。雨の少ないカリフォルニアで開花した映画産業を再現するシーンは、撮影所こそが夢の製造工場であると訴える。物語は、隆盛期のハリウッドで成功を目指す若者たちの葛藤と時代の変化についていけなくなったスターの苦悩を描く。酒、ドラッグ、音楽、セックスそして象、お城のように壮大な邸宅で繰り広げられる喧騒と狂気に満ちたパーティはこの業界の虚栄を象徴する。冒頭30分以上にわたる欲望と悦楽と虚飾と退廃は、エネルギッシュさの中に不快さすら内包していた。

大スターのジャックの雑用係になったマニーは撮影所に出入りし始める。ジャックの出演シーンのためにカメラを手配した手柄が認められ、マネージャーの役割も与えられる。

一方、売れない女優・ネリーは突然の代役を見事にこなし瞬く間にスターの階段を上っていく。セクシーかつ大胆であると同時に、繊細な感情表現にもたけている。そのあたり、セリフに頼れなかったサイレント期の俳優たちに求められた演技の質がリアルに再現されていた。やがて最初のトーキー映画が公開されると新陳代謝が起きる。次の年にはもう巨大倉庫のような屋根付きスタジオが建設され、室内で撮影と録音が同時に行われている。ネリーはワンショットのために8回撮り直すが、現場での録音技師の発言権が監督や出演者よりも大きい。そこにはトーキーに賭ける映画人たちの思いが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

マニーはドラック漬け・借金まみれになったネリーを矯正したうえで出資者に売り込もうとするが、その席で我慢の限界を超えた彼女が本性を現すシーンが秀逸だ。自分らしく生きたい、ありのままでいたい。たとえその先に破滅が待ち受けていても。その後も浮沈を繰り返した上に短命に終わってしまったネリーの人生はハリウッド黄金時代の徒花として強烈な光を放つ。マーゴット・ロビーが非常に魅力的だった。

監督     デイミアン・チャゼル
出演     ブラッド・ピット/マーゴット・ロビー/ディエゴ・カルバ/ジーン・スマート/ジョバン・アデポ/リー・ジュン・リー/トビー・マグワイア/オリビア・ワイルド
ナンバー     26
オススメ度     ★★★*


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https://babylon-movie.jp/