こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボーンズ アンド オール

友達なんて作れるはずがないと思っていた。父には厳しく監視されていた。それでも高校でひとり佇んでいると声をかけてくれるクラスメートがいる。だが、その子のきれいな指先を見ていると衝動が抑えきれない。物語は、食人本能を持つ少女が母を捜す旅を続けながら真実の愛を模索する姿を描く。女子高生らしい青春や恋愛や友情とは縁がなかった。父に見捨てられたおかげで突然眼前に自由が広がった。そして世間に飛び出して知った同類の存在。自らのアイデンティティを知るためにも母と話さなければならない。ところが、彼女の苦難の道のりは道中知り合った青年のおかげで新鮮な驚きに満ちた冒険になっていく。小さな町の住宅街から過疎地、自然豊かな森から地平線まで広がる平原。米国東部から中部に至る壮大な風景が美しかった。

父が残した出生証明書の住所を頼りにマレンはバスに乗る。乗り継ぎの間、サリーという老人に声を掛けられてついていくと、余命わずかな老婆を食べるように促される。

初めて出会った同類なのに、サリーはマレンに性的興味を抱いていないのに、マレンは親近感を覚えるどころか彼を嫌悪する。その後、繊細で大胆な同類・リーにはむしろ好意を抱き積極的に近づき、妹に会いに行くという彼のクルマに同乗させてもらう。飢えに耐えかねて襲う相手は家族のいない独り者、彼らがそのルールを守ろうとするのは共食いを防ぐためというのが切なくも哀しかった。運命を呪った。人生から逃げたかった。しかしどうすることもできない。彼らが過去に体験した苦悩とこれから直面する絶望がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

マレンは精神病棟に収容されていた母を見舞う。自分で食ったのか、両手とも手首から先がない。穢れた血が体に流れている以上、絶対に平穏な暮らしはできない。普通の人間として生きたいとどれほど願っても、平凡で幸福な日常が許されるわけはない。そんな彼らの葛藤が人肉を味わう恍惚感に上書きされていく。血まみれの顔やシャツが彼らの未来を暗示していた。

監督     ルカ・グァダニーノ
出演     ティモシー・シャラメ/テイラー・ラッセル/マイケル・スタールバーグ/クロエ・セビニー/デビッド・ゴードン・グリーン/ジェシカ・ハーパー/マーク・ライランス
ナンバー     33
オススメ度     ★★★


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