こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ワース 命の値段 

乗客の携帯電話が一斉に鳴り出し、にわかに通勤電車内が騒がしくなる。車窓からはもうもうと煙を上げている政府の建物が見える。そんな、自爆テロの現場を目撃した人々の反応がリアルに再現されていた。物語は、911犠牲者遺族救済プログラムの責任者となった男の苦悩と葛藤を描く。命の値段をつけなければならない。金持ちの補償額は高く、労働者は低い。それぞれの事情には見向きもせず、算定式で処理する。だが、通常の事故死のように事務的な対応をすればするほど、遺族の反発は強くなる。忘れないでほしい。自分が愛した人を誰かに覚えておいてほしい。そう願う遺族の気持ちを主人公が汲み取り、記号と数字でしかなかった犠牲者も人間だったと気づく過程は、あらゆる人生はかけがえのないものだと訴える。

911被害者補償基金の管理人となったケンは、1回目の説明会で猛反発を受けるが、ウルフがとりなす。だが、ウルフは反対派のリーダーとなり、ケンが提示した条件を拒否し続ける。

立場の弱い外国人労働者から切り崩しを図るケン。見たこともない大金を提示された遺族はあっさり受け入れる。だが、犠牲者の大半を占める真面目に働く米国人の遺族は、事務的にはじき出された金額に納得できない。部下たちは遺族と面談して少しでも彼らの心に寄り添おうとしているのに、ケンは示談の取りまとめばかりに頭がいく。犠牲者家族は標準的モデルに当てはまらないケースも珍しくないのに、効率化のために考慮しないケンの指針は、やがて部下からも反感を買うようになる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

策に窮したケンはウルフに助言を求め、自分がいかに遺族感情を逆なでしてきたかを知る。そして同性愛カップルや隠し子などあえて目を向けていなかった案件に取り組み、犠牲者に思いを寄せる大切さを学ぶ。成功した弁護士としてではなく、ひとりの人間として遺族が語る死者の思い出に耳を傾けるのだ。こみ上げる嗚咽を抑えて遺族が重い口を開くシーンは、悲しみをきちんと受け止めることが喪失感を和らげると教えてくれる。

監督     サラ・コランシ゛ェロ
出演     マイケル・キートン/スタンリー・トゥッチ/エイミー・ライアン/テイト・ドノバン/シュノリ・ラマナタン/タリア・バルサム/ローラ・ベナンティ
ナンバー     34
オススメ度     ★★★*


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