こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

波紋

夫、義父、息子。3人の男たちの世話に明け暮れる妻は表情を殺して日々のルーティンをこなしている。不満だらけ、でも口にはせず耐えている。なのに、突然夫がいなくなってしまった。逃げ出したかったのは自分の方なのに。物語は、新興宗教にのめりこむことで心の平穏を維持していた女が、夫の帰宅と息子の結婚で感情を乱されていく姿を描く。パートには出ているが義父の遺産でカネには困っていない。夫を許すつもりはなく少しずつ復讐しようと考えている。だが、浮かんできたのは、家族の男たちに身を捧げた挙句に用が済むと捨てられたかわいそうな女と思っていたのに、本当は彼女の潔癖症的な性格が男たちを追い込んでいたという皮肉。男女間のもめごとで被害者ぶっている女ほど実は己の加害に気づかないという真実がリアルに再現されていた。

住宅街の一軒家でひとり信仰に生きる依子の元に10年前に失踪した夫・修が戻ってくる。修はがんを患い、高額な治療費を出してくれと依子にせがむ。

介護していた義父がたびたび依子の胸を触ろうとする。もともと修とは没交渉だった依子は、帰ってきた修が肩を抱こうとすると強烈な拒否反応を示す。パート先では半額ジジイの怒声にびくついている。さらにきちんと育てたはずの息子とは距離を感じている。女ざかりなのに、男という生き物をまったく信じられず、かといって心を許している女友達は年配の清掃員だけ。枯山水の庭のように調和のとれた日常を送りたい、人間関係でももうこれ以上悩みたくない。そんな願いも空しく彼女の人生に土足で上がり込む男たち。家庭内で交わされるギスギスした会話の数々が、冷え冷えとした映像からさらに体温を抜き出していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

息子が連れてきた婚約者が難聴者だと知った依子は、彼女に結婚をあきらめてくれと頼む。だが、息子と婚約者も依子そういう反応を予想していている。婚約者が依子に放った反撃の言葉は、障害者もまた強烈なエゴを持ち、自己防衛のためにはしたたかになるいるという現実を象徴していた。

監督     荻上直子
出演     筒井真理子/光石研/磯村勇斗/安藤玉恵/江口のりこ/平岩紙/柄本明/木野花/キムラ緑子
ナンバー     98
オススメ度     ★★★★


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https://hamon-movie.com/