こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

怪物

ひとり息子が隠し事をしている。けがをしたり自分で髪の毛を切ったり靴を片方失くしたり深夜に出かけたり。果ては走っているクルマから飛び降りてしまう。物語は、息子が学校で暴力を振るわれたと確信したシングルマザーが事実関係を探るうちに、思わぬ真実が露呈していく過程を描く。担任の先生は暴行を否定する。他の教師や校長はもみ消すことしか考えていない。怒り、憤り、説明を求めても、誠意のない謝罪しか返ってこない。一番近い存在のはずなのに気づけなかった。表層だけ見て先入観にとらわれていた。なにより、抱えきれないくらいの想いで胸を痛めている息子の矛盾した言動を理解してやれなかった。立場が変われば見方も変わる、そんな「羅生門」的視点にひとひねり加えた展開は緻密な表現力で見る者を圧倒する。

担任の保利に息子の湊が暴力を振るわれたと抗議に出向いた早織は、星川というクラスメートが絡んでいると知り会いに行く。星川はひらがなも満足に書けず異端視されていた。

多少視野は狭いがやる気十分な保利は、まだクラス児童の性格・性向がよくわからず、不運な偶然も重なって窮地に追いやられていく。早織だけでなく周囲にまで誤解され、何を言っても言い訳と決めつけられる。まったく食い違う早織と保利の認識。だが、事態をこじらせた張本人である湊と星川は、大人が問い詰めても下を向いているだけ。保利や早織の人生を狂わせるほどの重大事件の当事者なのに口を開かない2人の心に潜む “怪物” の正体が切なかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

家庭訪問をした保利に、星川の父は「息子はブタの脳」と言い放つ。学校でも星川は男子からいじめられている。保利には、湊も星川いじめのグループに加わっているように見えている。父に見放された星川と、母の期待に応えたいけれど応えられない事情を抱える湊。本当のことが言えればいいのに、偏見のない場所に逃げられればいいのに。小学生を時流に乗ったトピックに寄せるのは残酷だが、彼らの苦悩はこの年ごろから芽生えているのだろうか。

監督     是枝裕和
出演     安藤サクラ/永山瑛太/黒川想矢/柊木陽太/高畑充希/角田晃広/中村獅童/田中裕子
ナンバー     102
オススメ度     ★★★★


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