こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フロンティア

otello2008-09-19

フロンティア FRONTIER(S)

ポイント ★★*
DATE 08/8/20
THEATER アスミック
監督 ザヴィエ・ジャン
ナンバー 201
出演 カリーナ・テスタ/サミュエル・ル・ビアン/エステル・ルフェビュール/オレリアン・ウィイク/ダヴィッド・サラチーノ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人里離れた一軒家に迷い込んだ若者たちが地元の変質者に次々に惨殺されていく。米国映画ならば犠牲者は無分別な上に向こう見ずで、襲う側は理解不能の怪物のような男というお約束がある。しかし、この作品では差別に苦しんだ挙句暴動にまで発展した移民問題や、いまなお根強く生き残るナチ残党など、フランスならではの社会問題をはらませて米国製とは一線を画そうとする。ただ、一度血が流れ始めると後は仏語であるという以外は違いを感じなくなってしまう。


大統領選で極右政党の候補者が支持を集めマイノリティによる抗議行動が多発する中、ヤスミンらは大金を奪って逃亡を図る。途中に立ち寄った怪しげなホテルで、仲間が一人また一人とナチ残党の一家に襲われていく。


警官隊のデモ弾圧の中、強盗でもしたのだろう、ヤスミンの仲間は激しい銃撃戦で負傷者を出す。激しい暴力の応酬は、彼らが躊躇なく警官に発砲し殺しも厭わないならず者であることを示す。ホテルでも身の危険を感じると銃を抜く反応は素早いのだが、相手も人殺しに慣れていてすぐに劣勢に立つ。スチーム室に逃げた男が蒸し焼きにされたり、ヤスミンの恋人がアキレス腱を切られるシーンはリアルな痛みが伴い、思わずスクリーンから目を逸らしたくなる。


やがてひとり生き残ったヤスミンは、妊娠を理由にナチ残党から手厚くもてなされる。このあたりのナチ残党の思考回路はよく分らないのだが、いまなお家長の権限は絶大で家族は誰も逆らえないというところが古いドイツの伝統を色濃く残す。その後、体力の回復したヤスミンは謎の少女の協力で危機を切り抜けるのだが、ナイフや斧による傷からだけでなく、回転ノコギリや吹き飛ばされた頭部から大量の返り血を浴び、全身どす黒い血に染まる。さらに最後に残った女ののどを食いちぎる。お腹の赤ちゃんを守りたいという意思からだけではあるまい、ひとりずつ殺し彼女の眠っていた凶暴な心が目覚めていく過程は女の「血」に対する耐性を強く感じさせた。


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