こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サイレントラブ

目の見えない女と口がきけない男。女は相手の顔がわからないまま一方的に話し、男は女の手を指タップして意思を伝える。物語は、ピアニストを目指す女と彼女を支えようとする男の寡黙な愛を描く。音楽を志すだけの財力に恵まれた家庭に育ち、挫折知らずだった彼女は交通事故で視力を失い絶望している。社会の底辺で真面目に働いている彼は、彼女の期待を裏切るまいとやさしい嘘をつく。叶わぬ願い、すれ違う思い。それでもお互いを必要とするふたりは運命に翻弄されていく。障害があるからこそ出会い、障害があるからこそ思いやりが深くなる。ピントの合わない瞳が視力を失った哀しみを象徴し、喉元の傷跡が声を失った苦悩と後悔を暗示する。ベタな設定のラブストーリーではあるが、持つ者と持たざる者という社会の格差を浮き彫りにしていく過程は、身分差を越えた恋は成就するのかと問いかける。

飛び降り自殺を図った美夏を救った蒼は黙ってその場を去るが、音楽室の前で再会する。蒼は大学の雑用係だがピアノ専攻と偽り、ピアニストの北村を雇って自分の代わりに演奏させる。

美夏は北村の演奏とは知らずにその音楽に酔い、蒼がピアニストと信じている。蒼は気づかれないように美夏に寄り添い、安全に歩けるか見守っている。忌まわしい過去ゆえに夢を見ることが許されない蒼が、美夏の成功を願って見返りを求めない無償の善意を送り続ける。決して許されない、幸せにはなれないと自らを戒めて生きる蒼の、声にならない心の叫びが哀しくも切なかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて蒼の親友が誤解したことから悲劇が起き、蒼は美夏を救うために究極の愛を選択する。沈黙こそ饒舌、言葉にしないことで感情を伝える蒼の瞳はどこまでも澄んでいた。 本筋とは離れるが、女子トイレを盗撮するのは男というアンコンシャスバイアスに一石を投じるエピソードは秀逸だった。

監督     内田英治
出演     山田涼介/浜辺美波/野村周平/吉村界人/SWAY/中島歩/辰巳琢郎/古田新太
ナンバー     20
オススメ度     ★★★


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/silentlove/